三菱自動車「貧者の戦略」、瀬戸際からEV一番乗り
そのとき、風はまだ吹いていない。2代目プリウスが登場し、ハイブリッド車が環境車の中心という流れが形成されつつあった。実は、三菱自動車もハイブリッドを研究していた。家庭で充電可能な「プラグインハイブリッド」を最初に商標登録したのも三菱だ(後に登録抹消)。橋本室長自身、EVには半信半疑だった。
「が、ハイブリッドは究極の環境対応車ではない。周回遅れでハイブリッドに挑戦しても、苦しい。究極のEVで一気に行く。そのほうがトップに立てる可能性がある」
EV一本に絞ってもカネはない。リチウムイオン電池はGSユアサ、三菱商事との合弁会社リチウムエナジーが生産するが、三菱自動車の出資比率は3社中最低の15%(GSが51%、三菱商事34%)。モーターも内製ではなく、明電舎から全量供給を受ける。資源節約のためのやむをえざる選択だが、しかし、電池とモーターという2大キー技術を“他力”に依存し、三菱自動車はどこで勝負するのか。勝負どころは、鍛え上げた統合制御技術「MiEVオペレーティングシステム」だ。
電池の状態を的確に把握し、電池を安心・安全に使えるようにどうコントロールするか。三菱自動車は1960年代半ばから連綿、EVシステムの開発の流れを絶やさず、とりわけアイ・ミーブについては2年間、東京電力など7電力会社の協力を仰いで実証試験を積み上げた。総実証走行距離は50万キロメートル。
通常、開発中の車は「黒い試走車」として門外不出だ。あえて電力会社に“公開”し、時間を買ったのだ。
資本も時間も可能なかぎり節約し、一番乗りにこぎ着けたアイ・ミーブだが、続々、ライバルの挑戦を受けることになる。まず、富士重工の「ステラ」が同じ7月下旬に登場。が、走行距離90キロメートルで価格472万円だから、まぁ、余裕だろう。脅威は日産自動車だ。来秋、年5万台で生産開始し、12年には欧米、中国を含め世界で20万台の電気自動車を生産する計画を打ち上げた。「日産とはEV社会を創り上げていく協力者でありたい。が、(日産のEVは)車体から何まで新しく作ると言う。いきなり5万台なんて本当にやれるのか」(三菱自動車・橋本室長)。