三菱自動車「貧者の戦略」、瀬戸際からEV一番乗り
電気自動車は一度、死にかけた。2001年、独ダイムラーが筆頭株主として三菱自動車に乗り込んできたとき、電気自動車(EV)には鼻も引っかけなかった。「EVに市場性はない」。が、ダイムラーはリチウムイオン電池には関心を示した。三菱のEVは「電池試験車」としてかろうじて生き残ったのだ。
この6月5日、三菱自動車は世界初の量産型電気自動車「アイ・ミーブ」の発売開始を宣言した。「電気自動車は次の100年で中心的な役割を果たす車。次の100年を走り始めたい」。その益子修社長の宣言から1カ月。橋本徹MiEV事業統括室長はしっかり「手応え」を感じている。「個人のお客様の受付は今月(7月)下旬からだが、法人需要は、おかげさまで引き合い順調。追加の注文もいただいている」。
プリウス、インサイトなどハイブリッド車がガソリンエンジンとモーターを併用するのに対して、電気自動車のアイ・ミーブは100%モーター、電気で走る。だから、走行中のCO2排出量はゼロ。「究極の環境対応車」(益子社長)だ。
100Vの家庭電源でも14時間でフル充電でき、1回充電すれば160キロメートル走行できる。確かに、長距離ドライブには向かないが、三菱自動車によれば、「日本人の1回当たり平均走行距離は88%が40キロメートル未満」。日常走行に支障はない。昼間電力なら、燃料代はガソリン車の3分の1、深夜電力なら10分の1になる。
ついでに言えば、モーターだから運転音は極めて静か。モーターはガソリンエンジンに比べトルク(前に回転する力)が大きいため、加速もスムーズ。等々、EVがなかなかの優れものであることは間違いない。
橋本室長は「風が吹いている。しかも、この1年の風の吹き方は想像以上」と言う。07年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書、昨年の洞爺湖サミットとグリーンニューディールブーム到来。CO2ゼロのEVには、世界的な追い風が吹いている。ところが、アイ・ミーブはせっかくの風を生かし切れていない。