若い社員の心に火をつける 樹研工業社長・松浦元男氏③

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まつうら・もとお 樹研工業社長。1935年名古屋市生まれ。65年に樹研工業設立。独特の組織運営で、技術開発に力を入れ、株式非上場ながら極小精密部品のトップメーカーに育て上げる。樹研工業の2009年5月期売上高は24億円、従業員は約100人。

世界一の技術を生み出すにはどうしたらよいか。実現するのは人間です。最終的には人材を育てることが企業の競争力を高めます。

 ウチの採用は先着順です。今年は何人と決めたら、先に来た人から採ります。いろいろな人が来ますが、その人に合う仕事を見つけるのが経営者の務め。採用人数は、去年が3人で、今年、来年はゼロです。

社員が育つために大事なことは、経営者がチャンスを与えることです。口だけではなく、実際に投資をすることです。ある時、入社2年目の若手社員3人が「私たちも、先輩が使っているようなCAD/CAMを使いたいので1台買っていただけませんか」と言ってきた。僕は「ダメだ」と言った。「3人いるのに1台とは何だ。1人1台ずつ買いなさい」と。そして3台入れました。

やる気になったときの一瞬を逃さずに伸ばす

そうすると彼らは心に火がついて猛烈に勉強を始める。これがチャンスなのです。やる気になったときにポンと乗っかる。そうすると彼らの世界がパッと広がるのです。今では立派な戦力に育っています。

先月、新しい機械を3500万円かけて入れたのも同じことです。去年の暮れ、不況になってから、20代後半の職人がこういう機械が必要なのですがと相談してきました。高い機種と安い機種の二つがあったのですが、彼が希望した高いほうの最高速の機械をすぐに発注した。彼は今その機械に夢中になって、いい仕事をしています。

今の若者はタイミングよく心に火をつけてあげれば、がむしゃらに勉強し働くのです。

ただし、彼らがそういうことを言い出すような雰囲気を会社が用意することが重要です。僕は、誰がいつどんなことを言ってくるか年中予測しています。彼はそろそろこの機械が必要だと言ってくるだろうな、と。それがわかるのは、毎日、会社の現場を歩いて、会話を楽しんでいるからです。僕も勉強して機械技術の最先端を把握しています。職場は楽しい真剣勝負の場です。

とはいえ社員が必要と言って導入した機械が使いものにならなかったこともあります。そういうのはとっておいてみんなに見せます。あいつの失敗だぞ、と。言われたほうは恥ずかしさはあるのでしょうが、萎縮はしません。給料のマイナス評点がないですから。むしろ失敗しないようなやつは何もやっていない証拠だと言っているくらいです。

失敗を責めるより、やる気になったときの一瞬を逃さずに伸ばす、これが人材を育てるポイントです。

週刊東洋経済編集部
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