やっていい競争とやってはいけない競争が、われわれ中小企業にはあります。樹研工業が重視する競争は「技術、品質、財務」、やらない競争は「規模拡大、品ぞろえ、価格」です。
「世界一でなければ意味がない」。これが技術に対する考え方です。そうしてできたのが、世界でいちばん小さい、100万分の1グラムの歯車です。まだ納入先は決まっていませんが、この技術のおかげで、時計メーカーとの新たな取引が始まりました。
品質は顧客からの信頼の源です。毎月5000万個の部品を作っていますが、不良品のトラブルを起こしたことがありません。これを支えるのが、独自の生産システムです。すべての金型と射出成型機を自社で開発し、外販もしています。材料のロス率も極端に低いので、無駄なコストがかからなくて済みます。
特化しなければ、やがて価格競争の波にさらされます
こうした技術や品質に、十分な投資ができるよう、財務内容もよくなければなりません。現在50%強の自己資本比率を65%へ引き上げることが目標です。このため黒字でも、株主への配当はしていません。株主は家族しかいませんから、配当を出せとは言われないのです。株式を上場するつもりもありません。
財務重視の考え方は、規模拡大の競争をしないことにつながります。数年前、大手自動車部品メーカーから大きな計画が示されました。ウチが20億円ぐらいの設備投資をすれば、その後毎年数億円の利益が見込めるという内容です。しかし、この仕事を受けると、自己資本比率と固定比率が大幅に悪化します。そのメーカーには、ウチが作った機械と金型を買ってもらい、その後に見込める毎年の利益は捨てました。もし、そのとき設備投資をしていたら今回の不況で完全にお手上げになっていたでしょうね。
品ぞろえを増やすのも規模拡大と同じです。結局、無駄な在庫を持ってしまいます。ウチは総合メーカーではない、小さな製品しか作らないと決め、仕事を選びました。特化して、極小精密樹脂製品での高い技術・品質を認めてもらうことが、生き残る道だと確信していたからです。
特化しなければ、やがて価格競争の波にさらされます。価格競争は自分の身を削るだけです。コストダウンには限界がありますから、いずれ会社が立ち行かなくなります。
これらの信念は、1973年のオイルショックで経営が傾いたときに考え抜いて得た結論です。「このまま赤字が続けば、会社は倒産する」という危機感が原点にあるのです。
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