元三重県職員が仕掛ける“わくわくする図書館” 図書館運営受託ベンチャーの夢
三重県四日市市の北東部に位置する市立八郷(やさと)小学校。授業の終わるチャイムが鳴ると、複数の生徒が教室から飛び出し、バタバタと足音を鳴らしながら、一目散に廊下を走り始めた。遊び盛りであるはずの生徒たちの目的地はグラウンドでも体育館でもない。視線の先にあるのは図書館だ。
「はあ、はあ」と息を切らしながら真っ先に図書館に飛び込んだ生徒は早速、「何か面白いのないかなあ」と本を物色し始めた。その後も性別、学年を問わず次々に生徒がやってきては、自分が読みたい本、授業で使う本など、思い思いに本を探す。通常の休み時間はわずか10分。限られた時間で内容を吟味した後、本を借り、授業に遅れないように走って教室へ戻っていく。
八郷小では、図書館が休み時間のたびに生徒が駆け込む人気スポットになっているのだ。その証拠が本の貸出冊数。ここ数年は右肩上がりで、2008年度は1万7639冊と、4年前の1・6倍にまで拡大した。
ほかの小学校に比べて面積が広いわけでも、蔵書数が充実しているわけでもない。しかも、「以前は少数の読書好きの生徒だけが集まっていたような状況だった」(平野貢・八郷小教頭)という。その図書館を元気にしたのは、民間のベンチャー企業、三重に本社を置く「リブネット」だ。
内部改革の限界感じ 県職員を辞め起業
リブネットは図書館の運営業務受託やコンサルティング、システム開発などを手掛けており、八郷小には現在週1回、司書を派遣する。
リブネットが運営する図書館はほかと何が違うのか。それは、生徒たちが図書館の本に触れるまでの“導線作り”にある。
八郷小の校舎内を教室から図書館に向かって歩くと、まず視界に飛び込んでくるのが、生徒たちに人気の本やかわいい絵の入った本の表紙だ。図書館に誘うように廊下の脇にきれいに飾り付けてある。生徒たちの足を向けさせるための仕掛けだ。入り口に来ると、絵やポップで飾られた「特集コーナー」がある。時期やイベントなどに合わせて図書館が薦める本が4~5冊紹介されており、生徒たちの興味を引く。
中に足を踏み入れると、空間が広く明るく見えるように本棚や机が配置されているのがわかる。壁に「文学」「科学」などのジャンル名が大きな文字で張られ、本が探しやすい。本を本棚の前面にそろえて、手に取りやすくする細かな工夫も見られる。さらに新刊だけでなく、古い本も読んでもらえるよう、目立つところに読んだ生徒の感想や司書の推薦文を並べ、読書意欲をくすぐる。何より、司書の先生にリクエストすれば、優しく丁寧な対応で目的の本を探してくれる。生徒たちにとっては宝の山に見えるのだ。