元三重県職員が仕掛ける“わくわくする図書館” 図書館運営受託ベンチャーの夢
そこで思いついたのが、今のリブネットのビジネスモデルだった。
「図書館はデパートと同じ」(谷口)。客である生徒を呼び込むために、どういった商品(本)をそろえ、ディスプレーや販売促進をどのように行い、在庫(蔵書)をどのように管理をするか、といったことを緻密に考える必要がある。それを限られた人数で全部行うのは困難だ。
そこで谷口は、自分が長年培ってきた図書館運営のノウハウをマニュアル化した。そして研修によってノウハウをたたき込んだ自社の司書を派遣、運営の一翼を担い、図書館活性化に努めたのだ。
人の手でカバーしきれない日常業務はシステムでサポートする。現場の司書は、システムを通じて必要な本のデータや飾り付けのデザイン素材などを入手。また月1回の特集テーマや本のリストなどは、本社のサポートセンターから各図書館に定期的に配信する。逆に運営状況は、日報などで把握し、必要な指示を本部から適宜出していく。人とシステムの両輪による組織的な運営でどの学校にも均質なサービスを提供できるのだ。
民間企業が教育現場に入ると、学校から暴利をむさぼると誤解されがちだが、このサービスはビジネスとして展開することに意味がある。教育委員会の年間委託料は数百万~数千万円と見られるが、カネを払うことで図書館に目を向けるようになる。リブネットの運営で見えなかった問題や課題が洗い出されれば、学校や教育委員会も一緒に改善に動く。つまり、図書館にPDCAサイクルが導入されるというわけだ。
01年3月に県職員を退職した谷口は、リブネットの前身を設立。その年の夏ごろから三重県内の教育委員会や学校への営業に奔走した。
だが、交渉は不調に終わることが多かった。なぜなら図書館は学校教育の中枢を担う“聖域”の一つ。ただでさえ民間に運営を委託することに対する抵抗は強かった。さらに当時は、運営を委託する前例がなかったうえに、何の実績もないベンチャー企業からの提案……。長年学校に勤務していた谷口なら、相手にしてもらえないことなど退職前からわかっていたはず。それでも、あきらめようという気持ちはなかった。支えていたのは「図書館を変えたい」という思いだった。
できることは、図書館活性化の重要性を説いて回ることだけ。三重県内の市町村を片っ端から回った。移動距離は毎日100キロメートル以上に及んだという。時には「谷口は布教に回っている」と揶揄された。