しかし教科書は、リンゴが値上がり(金利が低下)したときには同じ金額では、値上がり以前と同じ満足度を維持することはできないということを指摘している。
先ほどの「高くなったリンゴ(将来の消費)を減らして、ミカン(現在の消費)を増やす」という代替効果だけではなく、ミカン(現在の消費)とリンゴ(将来の消費)の両方が減るという所得効果も働くことを説明している。
リンゴが値上がり(金利が低下)したときに、ミカン(現在の消費)が増えるかどうかは、代替効果と所得効果のどちらが大きいかによる。
金利の低下で貧しくなる=所得効果
金利が低下した場合に、さきほどの老後資金計画で現在の生活費を削減して将来の生活水準を維持するというものになった。これは、金利の低下で生涯を通じて貧しくなるという所得効果が、現在の消費が将来の消費に比べて有利になるという代替効果を上回るからだ。
金利が低下して現在の消費が将来の消費に対して相対的に有利になっても、将来の消費を減らして現在の消費を増やそうという代替効果の規模は小さいだろう。それは、生活の満足度(効用関数)がどのような形をしているか考えれば納得が行く。
限界効用逓減の法則は、消費水準が上昇すれば効用(生活の満足度)は増すが1円の消費拡大による満足度の増加幅は縮小すると主張する。従って図の満足度(効用)曲線は、消費水準が高いところでは1円の消費拡大による上昇は緩やかになっている。一方、最低限度の生活水準に近づくと1円の消費減少で急激に満足度が低下する。
良く見かける「老後生活のために公的年金とは別に月額5万円の生活費を用意しましょう」というアドバイスは、このような満足度の形(効用関数)を暗黙のうちに仮定していると考えれば、教科書の教えに極めて忠実だ。
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