【前田新造氏・講演】“人”が創る企業力−組織を活かすリーダーシップ−(中編)

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 私たちはこのプロセスであらためてグローバル化という結論を持つことにしました。毎年執行役員全員が合宿形式で行なう政策会議がありますが、この会議で10年後の資生堂を論じました。結果、私たちが目指すのは「一人ひとりのお客さまの最高の美しさを実現し、心まで豊かになっていただく」。このことに向けて、きめ細やかなおもてなしの心をこの上なく大切にしながら絆を深め心豊かな価値を提供し、世界中のお客さまからの信頼と支持をいただく。そして、10年後の2017年にはグローバル企業の中でも日本をオリジンとし、アジアを代表する資生堂として世界中のお客さまに美しくなっていただくために、それぞれが切磋琢磨しながら世界の化粧品業界全体、そして地球市民として国際社会の発展に貢献していくことと定めました。
 これを実現するためには、先に申し上げた長い歴史の中で育み、伝承してきた資生堂ならではの普遍の価値、つまり物やサービスの質に対して徹底してこだわりを持つ「リッチ」、人の心への作用まで探究する「ヒューマンサイエンス」、人と人との触れ合いの中で心まで豊かにする「おもてなしの心」という3つの要素の掛け合わせで生まれるお客さまの最高の美しさを実現し、お客さまからの揺るぎのない信頼を築き上げていくことが重要となると考えました。この実現により文字通りグローバル企業としてキラリと光る存在になれると思っています。

 この実現のために10年のスパンを3つのステップで進めていくことにしました。第1ステップは既にスタートした2008年から10年までの3カ年計画です。テーマはすべての質を高めると置きました。これまで築き上げてきた経営基盤をベースに資生堂ならではの価値に磨きをかけすべての活動の質を高めながら、ホームマーケットである日本での確固たる地位とアジアでの圧倒的な存在感を確立するとともに、次なる成長へ向けた新興国への進出も積極化させます。第2、第3とステップを踏み、2017年までの3カ年ではアジアで築いた盤石な基盤を基に欧米での一層の拡充、新興国でのさらなる躍進を進めて世界規模での成長と収益性の向上を目指します。

 しかしながら今私たちは、1年前誰もが想像もしていなかった経済環境に遭遇しました。世界規模で瞬く間に広がった金融危機の影響は、当社においても例外ではなく、昨秋に導入した新ブランドを中心に高価格帯化粧品市場はなんとか持ちこたえているといった側面はありますが、厳しい状況にあることに変わりはありません。私たちは前3カ年計画をシナリオ通りに実行し、不断の改革によって多くの成果を成し遂げることができました。そのまま景況感が続けば現3カ年計画にコマを進め、ひょっとすると社内に慢心が生まれていたかもしれません。そのように思うと現在の厳しい経済環境は天が私たちに与えてくれた試練であるとも考えています。目指すべき場所はもちろん変えません。しかし環境は様変わりしていますから、山の頂きへの登り方は当初のルートとは違う道を選ぶことが必要になります。目下現3カ年計画の軌道修正を精密に行なっているところです。
後編に続く、全3回)

前田新造(まえだ・しんぞう)
1970年、慶応義塾大学文学部社会学科卒業。同年株式会社資生堂に入社。2003年取締役執行役員経営企画部長を経て2005年6月、代表取締役執行役員社長に就任。TSUBAKI、UNOをはじめとした6つの巨大ブランドを軸としたメガブランド戦略による変革を導く。
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