店舗増で解決できない小売業界が抱える問題
進まぬ大型店の効率性の回復
82年以降、従業員が1~2人の店舗のほぼ半数が廃業を余儀なくされた。ただ、競争の激化よりも経営者が高齢化して引退したのが大きな理由である。理由が何であれ、その影響は大きかった。一例をあげると、58年当時、全小売店の半分は従業員がわずか1~4人にすぎなかった。04年までに小規模店舗の売上高は、全体の売上高の15%にまで低下している。逆に従業員50名以上の店舗の売上高の比率は12%から28%へと高まっている。
大型店への移行は生産性革命を引き起こすはずであった。04年の従業員100名以上の店舗の1人当たり売上高は、家族経営の小型店舗の従業員の3倍であった。だが、それほど大きな改善が見られたわけではない。逆に労働生産性は97年から02年の間に年率で1・8%にまで低下している。これは、ウォルマートやホーム・デポなどの“カテゴリー・キラー”と呼ばれる安売り店舗の台頭で、97年から07年の間に小売業の生産性が年率で3・5%から4%の上昇を記録したアメリカとは対照的である。
消費者は財よりもサービスへの支出を増やしているため、日本の小売業界は斜陽産業となっている。インフレ調整後の産出高は96年以降、7・5%減少している。しかし、大手小売店は、そうした事実を無視するかのごとく行動している。百貨店売上高を例に取ってみよう。名目売上高は90年以降18%減少している。売り場面積は90年の水準を12%も上回っているにもかかわらず、1平方メートル当たりの売上高は30%も落ち込んでいるのだ。スーパーではさらに状況が悪化している。00年以降の売り上げは横ばいで推移している。90年以降、従業員1人当たりの売り上げが35%減り、1平方メートル当たりの売り上げが40%減ったとしても、驚くことではない。
際限のない市場シェア争いが続いているのは、小売業界に限ったことではない。東京のオフィスビルも空室率が上昇し、賃貸料が下落することで、同じような競争が起こる懸念もある。
日本の金融市場や資本市場ではさらに改革が必要で、“帝国”の建設を目指す企業はさらに効率化を求めよという、外的な圧力が強まるだろう。アメリカの金融危機は、金融市場原理主義に対する信頼を大きく損ねた。しかし、アメリカが極端に一方に走ったからといって、逆の方向に極端に走る日本のやり方が正当化されるものではない。
リチャード・カッツ Richard Katz
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語で rbkatz@orientaleconomist.com まで。
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