店舗増で解決できない小売業界が抱える問題

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 日本の大手小売業者の破綻や経営危機が相次いでから10年も経たないのに、小売業界はまた大規模な再編に向かって進んでいる。2008年度の百貨店売上高は7%落ち込み、3年連続の減収となった。ダイエーは今後3年間に全店舗の約10%を閉鎖すると発表している。イオンは拡大計画をスローダウンすると発表している。またセブン-イレブンのような大手コンビニは、固定費を回収するために増収を図ろうと価格の引き下げを行っている。

今回の不況の中で小売業界の脆弱性があらわになったのは、小売全体の売り上げが横ばい、あるいは減少しているにもかかわらず、大手チェーン店が何年にもわたって店舗の拡張を行ってきたためである。イオンの星田剛コーポレート・コミュニケーション部マネージャーは「市場が縮小していても他社からシェアを奪うことで成長できる」と語っている。同社は、最近まで有望な立地にできるだけ多くの店舗を設置しようとしてきた。イオンの戦略は成功するかもしれない。

しかし、そうした路線を取っている企業のすべてが成功するわけではない。総和がマイナスになるゲームでは、一部の企業が敗者になるのは避けられない。健全な戦略を取っている企業でも、店舗過剰で過度な価格破壊が起これば、利益を上げるのは難しいだろう。

こうした事態は想定されていなかった。大手企業は教訓を学んだはずであるし、市場シェアを奪い合う競争の時代は終わったといわれていた。新しいゲームは長期的な利益率で競うというものである。ただ本音と建前の大きな差がある。現在起こっている事態は、「市場シェア争いの意味がなくなっているのに、企業を市場シェア争いに駆り立てる日本的システムとはいったい何なのか」という疑問である。

1990年以前は店舗新設を規制する大規模小売店舗法(大店法)で営業時間と店舗拡張が規制されていた。同法の主な目的は、効率性の高い大型店舗との競争から自民党の支持基盤である小規模小売店を守ることであった。この制度は、経済成長を阻害する恐るべき非効率性を生み出した。しかし、この制度は全体の需給をバランスさせる役割も果たしたのである。

90年代初めに大店法は緩和されたが、その後、旧通産省が果たしていた需給バランスを図る役割を引き受けることができる健全な金融システムは登場しなかった。現在でも、その役割を果たす銀行や資本市場は存在しない。企業は自制心を失い、あたかも“帝国”を建設するかのように行動してきた。

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