給料はなぜ上がらない−−6つの仮説を読み解く【下】
05~06年に限れば賃上げしすぎ?
下の図を見てほしい。水色の折れ線が労働生産性上昇率、赤の折れ線が実質賃金上昇率の実績だ。今回の景気拡大期は、実質賃金上昇率が一貫して、労働生産性の伸びを大幅に下回っている。その差はあまりに大きいため、労働者にとっては、本来得られるべき賃金上昇が得られなかったことを示している。
しかし、交易条件の悪化を織り込むと様相は少し変わってくる。マイナスの棒グラフが原油高騰などによる所得流出効果、青色の折れ線はこの所得流出効果と労働生産性の伸びを織り込み、かつ過去の労働分配率を維持したとすれば実現できたはずの実質賃金上昇率を表している。
これを見ると、確かに03年~05年前半までは労働者は賃金上昇を取り損ねているが、05年以降の所得流出効果の拡大で、実は05年後半から06年末にかけては、労働者は許容範囲以上に実質賃金を取りすぎていたことがわかるだろう。そのことに気づいた企業は再び財布のひもを締めた。それが07年から再度実質賃金低下が顕著になる理由と考えられる。
現在、足元では石油は1バレル=100ドル突破が続き、騰勢を強めている。労働者が目指すべき実質賃金上昇率の目安となる青色の折れ線は、今後一段と下落することは確実だ。今春闘でも大企業のベアは前年並みの伸びにとどまったが、今後の日本全体の賃金環境は一層厳しくなることが予想される。
これは一企業のミクロの視点で見れば、原材料費の高騰で収益が圧迫され、賃金を増やせない構図とまったく同じだ。また、「昨今、日本から産油国への自動車の輸出などが急増しているが、これは産油国が所得流入効果で実質GDP以上の所得を得て購買力を増しているということだ。逆に今の日本は実質GDPより実際の購買力は弱い」(泰松氏)。
第5の仮説は、日本の全従業員の7割を占める中小企業を通じた労働分配率の増加は難しいというものだ。下の図のように、中小企業の労働分配率はすでに高止まりを続け、もはや上昇の余地は乏しい。これは中小企業の付加価値が低いためだが、儲からない中小企業はすでに可能なかぎり目いっぱいの賃金を払っている、と言い換えることもできる。