話は兼家の求婚から始まる。そのときはものすごく幸せだったであろうに、それほどの熱が入っていないように聞こえる。『蜻蛉日記』全体を通して言えることだが、これは作者が明るい話題を意図的に避けて、重くて暗い話ばかりに執拗にこだわっているからだ。つまり事実を取捨選択したうえで、自分が考えたプロットに沿うように出来事を陳列している。『蜻蛉日記』はただ単に起こったことの記録ではなく、みっちゃんの頭の中に展開されている、正真正銘の物語なのだ。
新婚生活が一転、ついに浮気相手が登場!
皮肉たっぷりに初期の幸せな結婚生活の話をしばらくしてから、町の小路の女という兼家の浮気相手が登場。いよいよ物語がヒートアップしてくる。
ヒィィィ!!! みっちゃんが本性を出したわね! 一人称「あたし」、二人称「愛するあなた」、三人称「あのオンナ」という恋愛文法の代名詞が全部そろった。しかも、浮気相手はなんと「町の小路の女」という、小馬鹿にした、意地悪さがにじみ出ている呼び名……。
みっちゃんが手紙の端に書いた言葉は何の変哲もないものに見えるのだが、注釈を見ると、「疑はし」に「橋」、「文」に「踏み」を、また「手紙を渡す」に「橋を渡す」、「訪れが途絶える」に「橋が壊れて通えなくなる」の意味を掛けている。さらに、「踏み」、「渡す」、「途絶え」は「橋」の緑語……え?!そこまで!?と思うぐらい、どの言葉をとっても、その裏に見え隠れする別の意味がある。ウザさ倍増間違いなし、注釈を読んだだけでも軽く目眩がしそうな勢いだ。
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