内容の信憑性はさておき、あくまでも真実を語っているように見せかけるというのはいわゆる日記文学のお約束なのだが、『蜻蛉日記』はそのような小細工をいっさい使っていない。
夫を待ち、恨み続けた21年間の「黒歴史」
なぜなら、みっちゃんは、日々のささいなことを書き留めるとか、過去の出来事を忠実に記しておくとか、真実をつまびらかにするとかいったことにまるで関心がなかった。伝えたいことははただひとつであり、それを伝えるために「夫・藤原兼家は最低の野郎なのだ」という前提をもとに物語を発展させている。その「開き直りっぷり」は同年代の日記にはないスパイスであり、『蜻蛉日記』がより異質な作品として際立つのに一役も二役も買っている。
まず、出だしからすごい。
これは上巻の序文であると同時に、全体の序文でもある。ここですでに作者が最も話したいこと、つまり「自らのはかない結婚生活」というテーマを持ち出している。『蜻蛉日記』は上巻・中巻・下巻の三部からなり、上巻には15年間、中巻・下巻はそれぞれ3年間の出来事が収められ、作者が兼家を愛して、待ちわびて、呪った21年間の黒歴史がどっぷりと詰まっているのだ。
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