新しい発想をしたければ「権威」になるな! ベテランは「知識」を「儀式」に変えてしまう

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というわけで、私は熱視線を向ける制作チームの面々と対峙した。刺繍されたテーブルクロス。見事に装飾された椅子。上級機種のモニター群。部屋に充満する、むせ返るほどの高級感。絵の具がそこら中に飛び散って雑然としたアトリエのような、失敗しても誰にも何も言われないような環境に棲息する私にとっては、実に居心地が悪かった。

とりあえず手短に自己紹介をして時間を稼ぎながら、どうしたものか考えることにした。何も生み出せないのはわかりきっているのだが、このセミナーには既に大金が注ぎこまれていた。まずその点から何とかすることにした。ホテルのスタッフには嫌がられたが、最初に椅子とテーブルを会議室から出してもらった。ゆったり落ち着いた気分で座っていて欲しくなかったからだ。ガランとした部屋の中で、ようやく気分が落ち着いた。画家はまっさらなキャンバスを、物書きは真っ白いページを見ると、やる気が出るのだ。しかし局の人たちは苛立っているようだった。

よってたかって創造性を窒息させるような態度

局は新しいドラマを放映したいのに、局内の企画はどれも凡庸で、みんな困っていた。企画に息を吹き込むために私が招かれたというわけだ。そこで、手元にある企画は無かったことにして、新しい企画を考えた方が良いと伝えた。良くないアイデアをいじくりまわしても時間の無駄だ。しかし、この提案も困惑をもって迎えられた。

文芸部、撮影部、制作部、音響、セットに衣装デザイン。大勢のスタッフが、よってたかって創造性を窒息させるような態度をとっていた。「この道何十年の私なら、何をどうすれば良いかわかっている。プロとして正しい選択をする訓練を受けているんだ、私は!」。つまり、誰もがいつもと同じ、何十年もやってきた方法でやりたがったのだ。しかし、新しい方向性に向かって心を開いてくれない限り、私には手の出しようがなかった。

そこで、全員の立場を入れ替えることにした。撮影の人たちに脚本のアイデアを出すようにお願いし、衣装さんたちに登場人物を考案するように、音響さんたちには撮影ロケーションのことを考えてもらった。そして見事に全員の反感を買った。

何とか納得してもらって、みんなはようやく心を開いてくれた。プレッシャーの重圧から解放され、同時に失敗を恐れる気持ちも消えた。門外漢なのだから、プロとしての沽券みたいなものにしがみつかなくても良いのだ。みんなが、即興でいろいろと遊び心に溢れたアイデアを出し始めた。

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