実際には、日欧の先導役となったFRBが政策正常化の過程で直面しているのは、財政規律毀損による金利高騰などの弊害ではないことは、最近の長期金利低下やインフレ率安定をみれば明らかだろう。量的金融緩和の手仕舞いや利上げが、海外経済などを通じて、景気失速や低インフレの長期化を招くリスクが警戒されている。金融緩和の弊害・副作用よりも、先に述べたように金融緩和を手仕舞うタイミングの妥当性が、本質的なリスクということだろう。
先進国の中銀が繰り出してきた国債購入などの量的金融緩和が、財政規律を歪めるなどで金利上昇を招く経路が働かないことにはいくつか要因があるが、金融緩和が成長率の押し上げをもたらし、税収拡大をもたらす経路が強く働くことが一つの要因と筆者はみている。
追加金融緩和の余地を広げた日銀の対応
実際に、アメリカとイギリスは一足早く量的金融緩和を始めたが、多くのユーロ諸国や日本と比べて財政収支の改善ピッチは速かった。金融緩和でデフレが和らぎ税収拡大が続いたことに加えて、歳出が抑制されたためである。つまり、量的金融緩和に積極的だった米英で財政収支改善が進み、金融緩和に積極的ではなかった日本とユーロ圏では財政赤字縮小が進まなかった。量的金融緩和の弊害を警戒する見方とは逆に、金融緩和の強化を通じて財政の健全性はむしろ高まった。以上が、リーマンショック後の先進各国の経験である。
米国では、2015年まで財政赤字縮小が続き、更に債務問題を巡る政治闘争が一服した。このため、2016年に政府支出は2%前後と2009年以来の伸びに高まると当社エコノミストは予想している。量的金融緩和が経済の正常化を後押ししたことで、財政支出による景気下支えが可能になっている。財政政策が、外的ショックを吸収する役割を果たす余地が今年の米国経済にあることを意味する。
また、1月に入ってECBのドラギ総裁が金融緩和強化する方針を明確にし、29日には日本銀行が、マイナス金利導入による金融緩和強化を打ち出した。日本、欧州の金融緩和が続くことが、米FRBの利上げによる引締め効果を、和らげる方向に作用するだろう。
日銀によるマイナス金利導入には、賛否を含めさまざまな見方があるが、同政策が金利低下をもたらし、またポートフォリオリバランス効果で円高抑制に働く経路がある。金融緩和の徹底で海外発のショックを和らげることが主たる目的だろう。さらに、追加金融緩和への疑念が市場の一部にくすぶる中で、2%インフレ目標実現へのコミットメント強化のために追加金融緩和の余地を広げた対応と、前向きに評価できる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら