家電としての電気自動車? インダストリアルデザイナー・榮久庵憲司氏①

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えくあん・けんじ インダストリアルデザイナー。1929年東京生まれ。東京芸大美術学部図案科を卒業後、GKインダストリアルデザイン研究所設立、所長となる。現在、GKデザイングループ代表。フランス芸術文化勲章、勲四等旭日小綬章など、デザインの貢献で国内外の受章多数。

「家電の自動車はどうかね?」。ある日、私は中国の家電メーカーの人たちと話をしました。「どういうデザインですか?」と質問されると、次から次にアイデアが出てきて、自動車メーカーが作る電気自動車ではなく、家電メーカーが作る、家電としての電気自動車だということを申し上げたら、とても興奮していました。

 私はインダストリアルデザインと言われる、工業製品のデザインをしていますが、よいデザインの画期的な製品は、こうしたまったく新しい発想をするときに生まれてくるものです。

赤いキャップのキッコーマンの卓上しょうゆ瓶。50年近く同じデザインで売られているロングセラー商品ですが、あのデザインは私たちがしたものです。依頼は、「何百年も前からあり、古いと思われているしょうゆを新しく見せるにはどうしたらいいか」という漠としたものでした。

おとぎ話のような夢を描き、根本的に考え直す

そのときにはおとぎ話のようなことを自由に考えました。水道のように蛇口をひねったらしょうゆが出てこないか、真っ黒いしょうゆの色を変えられないか、など。

依頼のあった1958年当時、しょうゆは多くの家庭で流し台の下に一升瓶に入って置かれていました。そして年を取った女性が、よっこらしょと腰を痛めながら差していました。そういう姿が古い、だからしょうゆのイメージを大胆に変えるモダンなパッケージを作ろう、と。それで卓上瓶を作ることになりました。

頭の中でイメージしたのは、女性が手にしたとき、小指が立ち、指のフォルムが美しく見える光景。そのために瓶は首が細く、下に行くほど、どっしりしてくる、あの安定型の形にしました。首の太さも女性がつかみやすいサイズにした。

実用面でも苦労しました。急須などのように下側が突き出す受け口の形ですと、どうしてもしょうゆが垂れてしまう。そこでこれを反対に、つまり上側が出ている形にしました。すると垂れなくなりました。文字どおり逆転の発想でした。

置いて美しく、手にしても美しい。しかも使いやすくしょうゆの切れもいい。そして何よりも古くからあるしょうゆの味わいを損ねずに、新しさが強調される。そういうデザインを3年がかりで作り上げたのです。

大不況になった今、企業は、何を作ればいいのだろうと悩んでいるように感じます。こういうときはおとぎ話のような夢を描き、デザインを含めて根本的に考え直すことが必要なのではないでしょうか。

週刊東洋経済編集部
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