興奮がとても重要 インダストリアルデザイナー・榮久庵憲司氏②

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えくあん・けんじ 日本のインダストリアルデザイナーの草分け。1929年東京生まれ。東京芸術大学卒業。キッコーマンの卓上しょうゆ瓶やヤマハ発動機のオートバイシリーズ、成田エクスプレスなど幅広い工業製品のデザインに携わる。

興奮がとても重要だと考えています。いいインダストリアルデザインは、作り手が興奮することによって生み出されるもの。デザイナーだけでなく、依頼する企業の人も興奮して、いろいろなアイデアをぶつけ合う形が理想です。けれども、最近、企業の人たちと話をしても、冷静さを保とうとしているのか、興奮することがほとんどありません。

 私は杖をついています。この杖が孫悟空の如意棒のようになったらどんなに面白いだろう。小型化するコンピュータを杖におさめ、これ一本でいろいろなことができないか。そんなおとぎ話みたいなことをいつもたくさん考えています。それらを企業の人に話すと「先生、面白いですね」と言ってくれるが、それで終わってしまう。次の話が出てこない。つまらないですね。日々生きているテンションの作り方が足りないような気がします。企業の教育のカリキュラムがよくないのかもしれません。

アイデアを褒め合う環境が、いい仕事につながっていく

私が米国に留学していたとき、朝、同級生に会うと「おはよう」とは言いませんでした。「宿題できたか?」が朝のあいさつでした。デザインの学校で、毎日たくさんの宿題が出ていました。だから朝からいろいろなアイデアの話をしていました。シャボン玉の絵を、色を塗らずに立体的に描くにはどうしたらよいか。米国は大きな自動車ばかりだが、日本の狭い道に合うような小さな自動車のデザインはどうあるべきか、など。

会社でいえば、朝会って「おはよう」ではなく、「昨日、課長に言われた案件だけど、こうすれば実現するのでは」などと言い合えるといいと思います。そういう精神的土壌を作ることが大切です。これによりコミュニケーションが深まり、仲も良くなります。「あの課長、きついからね」など言い合っていると、お互いがつながっていきます。

仲間がアイデアを出したら、褒めたたえる体質も必要です。「お前のアイデア、面白いぞ」と。人のつながりを潤沢にします。ただし「いいね」と言うだけではよくない。「ここをこうしたらもっとよくなるのでは」とアイデアを出し合うと良い。

企業としては、そういう場を作ることが大事です。毎朝が難しければ、年に数回、アイデアを出し合う場を設ければいい。ボードを置いて、アイデアをプレゼンテーションできるようにする。その「場」をつねに気にする担当者も配置し、月に何人か表彰するのもいい。こうしたアイデアを出し褒め合う環境が、緊張と興奮を生み、いい仕事につながっていくと思います。

週刊東洋経済編集部
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