(第3回)ストレスに強くなる生活習慣・その1 睡眠編

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(第3回)ストレスに強くなる生活習慣・その1 睡眠編

亀田高志
 幼い子どもは親に叱られる等のストレスを受けると、ひどく泣いて眠ってしまうが、その後は忘れたように機嫌が直る。同じように、大人にとっても眠ることはストレス解消だけでなく、活力を取り戻すのに大切だ。しかし、日本人の睡眠時間は高度成長期に比べて短くなって、睡眠不足や不眠に悩むビジネスパーソンも多い。
 生活習慣を整えていくことはストレスマネジメントには有効だ。そのうち今回は、睡眠のとり方のコツを紹介しよう。

●ビジネスパーソンの睡眠の実態

 行政等による調査では、ビジネスパーソンの睡眠時間の減少が顕著である。30代から50代の男女の平日の睡眠が短いこと、高度成長期から比べて30分以上睡眠時間が短くなっていること、睡眠時間が5時間未満の割合が6%以上あること等が明らかにされている。
 睡眠不足の理由は、残業が常態化して帰宅が遅くなることやテレビ番組が深夜に及ぶこと、インターネットが普及し深夜まで使用する場合が多いこと等が考えられる。首都圏のビジネスパーソンは通勤に片道1時間以上かけているケースが多いため、睡眠時間の減少に拍車をかける。残業が月に100時間を越えると睡眠が5時間をきり、メンタルヘルス不調のリスクを生じるとする調査結果さえある。

 仕事柄、メンタルヘルスの研修を行う機会が多いが、しばしば生活リズムと睡眠について受講者に答えてもらっている。ここで典型的な例として、悩めるAさんを紹介しよう。
 神奈川県央から都心へ通勤する某社係長で、始業が9時前なので6時半に起床し、7時すぎには自宅を出る。就業後も3時間ほど残って21時半ごろに退社する。帰宅は23時となる。夕食をとり、入浴して、テレビやインターネット等を見る。午前1時を過ぎて漸く床につく。睡眠時間はぎりぎり5時間で、翌日は6時半に起きる。
 このようなサイクルを繰り返しているうちに、疲労感や不眠にさいなまれる。昼過ぎには眠気に耐えられず、怒りっぽく、気持ちは後ろ向きになり、ストレスをためていく。

【正しい睡眠の取り方】

 先のAさんの生活リズムは現代の価値観や生活様式に従って真面目に働いていれば、誰しもが経験する状況だ。見方を変えれば、受身での暮らしぶりの結果だとも言える。
 人間は生理的に朝型の暮らしに向いている。太古の時代から日が昇るとともに起床し、日が沈むと眠るようにできている。22時から2時の4時間が睡眠には最も大切な時間帯だ。疲労回復を行う成長ホルモンが2回、分泌されるからである。この時間を過ぎて眠っても起きた時の疲労感がとれにくい。
 睡眠は1時間半のサイクルを繰り返す。1時間半のサイクルで最初は脳が寝て、次に体が寝て、夢を見る。1時間半のサイクルを繰り返しながら、だんだん眠りが浅くなって、朝目覚める。

 科学的な研究では睡眠不足は借金(負債)として考えられている。人体は睡眠の借金ができ、返済もスムーズにできる。借金のたまり方は寝つきや昼間の眠気でわかる。寝つきがよいことを日本では自慢する傾向があるが、睡眠不足の裏返しである場合が多い。
 一方、人体には睡眠を貯金する能力はない。従って睡眠不足を補うために「寝だめ」はできない。日曜日にごろごろとしていて、夕方目覚める。そうすると日曜日の夜の睡眠の質が悪くなって、疲れを感じながら月曜日の朝に出勤する羽目になる。昼寝は先の1時間半のサイクルひとつ分に止めるとよい。昼寝でも目覚まし時計をかけて起きるようにする。睡眠負債を返すのは休日の昼ではなく夜がよいのだ。

 人間には体内時計と呼ばれるリズムが備わっている。不思議なことに体内時計の1日は24時間より長い。電気の明かりに囲まれた生活では25時間、明かりのないところで暮らしても24時間10分といわれている。だから夜型にするのに苦痛はなく、受身で流されれば夜型になる。学生時代に経験した長期の休みで、夜中まで起きているのは簡単だったはずだ。
 これに対して、意識的に朝型にするには日光の力を使うとよい。午前中に日光を浴びながら通勤すると脳に刺激が伝わり体内時計を24時間サイクルにリセットできる。夜型のサイクルに流されず、適当な時間に眠気を起こすこともできる。

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