“売れない”かんぽの宿、オリックス一括売却への難癖で、ますます隘路《不動産危機》
年明け以降、国会で大きな争点となった日本郵政の「かんぽの宿」売却をめぐるドタバタ劇。昨年12月26日に日本郵政がオリックス不動産への売却を発表したが、年明け早々に鳩山邦夫総務大臣が待ったをかけたことで混迷が始まり、なお尾を引いている。
鳩山大臣の問題提起は「なぜオリックスなのか、なぜ一括譲渡なのか、なぜ不動産価格の下落しているこの時期なのか」というもの。結局、会社分割による売却の認可が下りず、日本郵政はオリックス不動産への売却を撤回。売却方式の再検討を行うことになった。
一連の問題を、郵政民営化を推進した竹中平蔵・慶応大学教授は「経営判断に対する不当な政治介入。西川善文社長を退任に追い込もうと考えた総務省官僚による自爆テロではないか」と見る。これまでにオリックス不動産決定までの経緯が明らかになったが、今回の売却先決定の経緯を“出来レース”と証明するような事実は出てきていない。日本郵政の報告に疑問を感じたのであれば、「いきなりマスコミを前にして宣戦布告するのではなく、納得がいくまで日本郵政側に説明を求めれば済む話だった」(日本郵政関係者)。郵政民営化の見直しを迫る政治圧力と鳩山大臣の政治パフォーマンスに翻弄された、というのが結論だろう。
雇用維持のハードルで有力候補が続々と辞退
日本郵政の情報開示により明らかになったのは、かんぽの宿事業の“不人気ぶり”だ。昨年5月15日までの申し込み締切日までに応募した企業は海外系ファンド10社を含む27社。ところが、1次審査が終わった8月の時点で残ったのは、オリックス不動産、住友不動産、ホテルマネージメントインターナショナル(HMI)の3社だけになってしまった。予備審査を通った応募者に対し、施設ごとの損益状況などを明らかにしたところ、辞退した事業者が多かったためだ。「従業員の雇用維持条件がネックになった。3200人の雇用をいったん引き継げば、一定期間後も解雇は難しい」と予備審査後に辞退した大手不動産会社幹部は言う。「しかも古い施設が多く相当の設備投資をしなければ成り立たない。タダであっても難しいというのが正直なところだった」。
こうした中で、なぜオリックス不動産は、買収意欲を燃やし続けたのか。一つは、オリックスには杉乃井ホテル、御宿東鳳、ホテルミクラス(大月ホテル)、鳴子ホテルなどを再建した実績があったこと。培ったノウハウを生かせば年間50億円の赤字を出すかんぽの宿を再生できると判断した。また、現従業員を活用した再生を進めるため、雇用についても「正社員の雇用条件を当初1年維持。変更をする場合は日本郵政労働組合との協議を行う」「期間雇用社員の雇用は継続」との好条件を提示。郵政民営化法の付帯決議で「民営化後の職員の雇用安定化に万全を期すること」との項目があるため、オリックス側の提案は日本郵政の求める条件とも合致していた。
さらに、オリックス不動産の担当部長が直前まで研修施設の運営を行うグループ会社「クロス・ウェーブ」に勤務していたこともあり、かんぽの宿、社宅以外に付属していた複合施設「ラフレさいたま」を研修施設に転用できると判断できた。
“出来レース”ではないことを示すのが、目玉物件の一つであった「世田谷レクセンター」を除外した経緯とその後のオリックス不動産の対応だ。簿価62億円に対しオリックスが23・6億円、HMIが43・5億円(付随コストの一部=10億円を売り主が負担、という条件付き)と評価。価格面で折り合わないと判断した日本郵政の一方的な判断で、世田谷レクセンターは土壇場になって入札物件から外れ、HMIは降りた。「それにもかかわらず、日本郵政側から『競争が激しい。レクセンターなしでも金額増額を』とプレッシャーをかけられ、担当部長は4億円増額して109億円にしてしまった」(オリックス不動産関係者)。