“売れない”かんぽの宿、オリックス一括売却への難癖で、ますます隘路《不動産危機》
あまりに「民間」すぎた日本郵政の売却手法
2次提案の段階で住友不動産は「1次提案以降景気がさらに悪化したこと、社内を説得できるだけの将来計画策定は困難と判断したこと」を理由に辞退している。が、仮に住友不動産が最終的に落札したとしたら、その場合にも「西川社長が自分の出身である住友グループを優遇した」とケチをつけることができただろう。また、当初応募していた外資系ファンドのうちのどこかが落札したとしても、やはり「外資への売却は出来レース」と難癖をつけることができてしまう。
「不動産価格が下落している今の時期になぜなのか」という点も、法律による売却期限が2012年9月末と定められているのであり、難癖にすぎない。売却事業ゆえ年50億円の赤字を出している中でも投資はままならず、事業価値の毀損が続く。早く売らなければ日本郵政の決算にもマイナス影響を与える。全国に11あるメルパルク(旧郵便貯金周知宣伝施設)の売却も控えているため、時間的な余裕はないのだ。
批判は過去の売却手法にも及んだ。日本郵政は、公社時代(03年4月~07年9月)に計622件の施設・土地の売却を実施したが、個別物件ごとの一般競争入札のほか、バルクセールを4回実施している。その後、転売で利益を稼いだ業者があることから、不当な安値売却だったのではないか、というのだ。しかし、これもやや筋違いだ。
バルクセールとは売れ残り用地の保有コストをなくすために市場性の高い不動産とセットにして売るもので、頻繁に行われる不動産売却の手法だ。確かに、不動産価格の上昇局面にあったこともあり、落札者側が転売により利益を得ている例が多く、そのことが批判の対象になった。しかし、4回とも第三者による鑑定評価額(予定価格)より高値での売却に成功しており、安すぎるとは言えない。
ただし、日本郵政の売却方法に、問題点があったのも事実だ。透明性・公平性の確保という意味では、売却手法があまりにも恣意的だった。なぜ会社分割という手法をとりながら、かんぽの宿事業とは関係がない都内の社宅やラフレさいたま、世田谷レクセンターなどの施設をセットにして売ろうとしたのか。本来であれば、これらの施設は、個別に入札を実施するべきものだ。特にラフレさいたまは、さいたま新都心の中核施設の一つになっていることからも、地元自治体に一定の配慮をするのが筋だった。
西川社長は、かんぽの宿の売却方式を再検討する第三者委員会の初回会合で「事業譲渡について無意識に焦りはなかったか、地元への配慮は十分だったか反省すべき点があったのではないかと感じている」とあいさつした。国の資産を引き継いでいる身でありながら、あまりにも大胆に民間の発想を取り入れた故の蹉跌と言えるかもしれない。
今後は、個別施設ごとの売却を行う方向で決着しそうだ。しかし、109億円より高い価格がつくかどうかはわからない。不動産市況の趨勢を見るかぎり、売却にてこずる可能性のほうが高いだろう。