日本人が知らないアメリカ起業哲学の源流

アイン・ランドは何を説いたのか

むろん事業が成功し、大組織の頂点にたてば、アイン・ランドに鼓舞された起業家たちも自分本位ばかりではいられなくなる。また作品に肯定的な読者がみなエキセントリックな反逆者だったわけでもない。

彼らは仕事をし、成果を上げ、頭でっかちの若者から成功したビジネスマンとして認められるようになると、その思想を後進に伝え続けた。アメリカの人気テレビドラマ「マッドメン」では、主人公のドン・ドレイパーが働く広告代理店の社長が仕事や生活の雑多な悩みで悶々としているドレイパーに『肩をすくめるアトラス』をすすめるシーンがあるが、似たようなことは日常的に行われているようだ。

ランドの思想はとてもパワフル

ノースカロライナの銀行家ジョン・アリソンは南部の大手銀行BB&TのCEOを勤めていた際、部下の重役たちに『肩をすくめるアトラス』を読ませていたという。「ランドの思想はとてもパワフルだ。彼女はアリストテレス派で、理性の擁護者。考える力が進歩の源であり、人が生産的であるためには自由でなければならないと信じていた」と、アリソンは語る。

ランドのオフィシャルな思想である客観主義(オブジェクティビズム)の学徒でもある彼はBB&T退任後も一時期ワシントンDCの保守系シンクタンク、ケイトー研究所の所長をつとめ、現在もランド思想の正当性と有効性を説きつづけている。

「彼女は利己主義とは長期的な自分の利益を追求することだと考えていた。我々は商人であり、価値のあるものを価値のあるものと交換する。人生はウィン・ウィンの関係を作っていくこと。ランドの思想で教えているのは商人の原則、ともに良くなる文脈において、利益を追求するということだ」

先物のインデックス開発を手掛けるアルファ・ファイナンシャル・テクノロジーズCEOのビクター・スペランデオは本屋で偶然アイン・ランドの論文集『利己主義の美徳(原題:Virtue of Selfishness)』を見つけ、二十代にランドの著作を読んで過ごし、アリソン同様、その「商人」の考え方に深い感銘を受けた。

最近はトレーダー歴四十五年の実績を生かし、投資に関する本を書いたり経済メディアでコメントしたりしているが、自分のリムジンを前述のヒロインにちなみダグニーと名付けている。

コンベアベルト大手のイントラロックスなどを傘下に持つレイトラムCEOのジェームズ・ラペールは、敬虔なカトリックで大きな政府にも疑問をもたない大学生だった頃、バスケットボール部のチームメイトに「共産主義は、理想は素晴らしいが現実的には機能しない」といったところ、「共産主義は考えうる限り最も邪悪な政治制度だ」と反論され、夜明けまで議論した。

決着はつかなかったが、そのチームメイトからランドの論文集『資本主義:理想(原題:Capitalism: the Unknown Ideal)』を渡されて読み、アイン・ランド主義者に転向した。

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