海外で広がる銀行国有化、前途には多くの課題《スタンダード&プアーズの業界展望》

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 米シティグループ(A/ネガティブ/A−1)も多額の損失によって資本の質が低下していたため、米国政府と政府系ファンドに優先株を普通株に転換することを要請し、結果として国が筆頭株主となった。

各国政府による増資、あるいは資本再構成に伴い、RBSのカウンターパーティ格付けは据え置かれたが、ロイズTSBは「ダブルAマイナス」から「シングルAプラス」に格下げとなった。シティグループも、格付けは据え置かれたが、アウトルックは「安定的」から「ネガティブ」に変更された。ロイズTSBの格下げは、1月に住宅ローンのウエートが高い英HBOSと合併したことにより、資産の質が想定以上に悪化したことを反映している。シティについては、資本の質と、スタンダード&プアーズがコアの資本とみなす修正後普通株主資本の水準が、優先株の転換によって改善することはプラスとみている。だが、今回の措置が十分でない場合、米国政府主導による再建策を通じて債権者に何らかの損失負担が生じる可能性があるとして、アウトルックを「ネガティブ」に変更した。

政府から資本支援を受けた欧米大手銀行の長期カウンターパーティ格付けは現在、おおむね「シングルA格」(「A+」「A」「A−」)だが 、これは政府による特別支援を反映したものであり、単体ベースの評価(スタンドアローン評価)から2ノッチ以上引き上げられている。スタンダード&プアーズでは、各行の預金、優先債券の支払い確実性は、各格付けが示すように高水準に維持されているとみているが、優先株などのハイブリッド証券については、支払い停止の可能性が高まっているとみて、優先債券との格付け格差を従来よりも拡大させている。

実際ノーザン・ロックについては、ハイブリッド証券の配当支払いが停止されており、またシティグループも普通株、優先株の配当停止を発表した。ロイズについても、優先株の配当停止の可能性がより高まっているとみて、優先債券より6ノッチ低い水準に格下げし、格下げ方向の「クレジット・ウォッチ」に指定している。優先株の配当停止は、外部への資金流出を抑制して資本を強化する点はカウンターパーティ格付けにとってプラスだが、一方で民間からの資本調達を困難にし、財務の柔軟性を弱める可能性がある。政府の支援は銀行の信用力の一段の低下を食い止めはしたが、今後の業績回復や将来の見通しについてはなお不透明な状況である。

日本の銀行の国有化

日本で国有化された銀行は、経営陣の刷新やガバナンスの強化などの効果もあって、比較的短期にバランスシートの健全化を成功させている。一方で国有化は顧客離れや評判の低下を招く側面もあることから、特にもともとの事業基盤が弱い金融機関は、安定した収益の確保に苦労している。新生銀、あおぞら銀では、新たな収益源として、投資銀行業務、リテール業務、不動産関連融資、海外での証券投資などを伸ばしたが、特に海外投資は最近の金融危機の影響で損失を受けた。

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