海外で広がる銀行国有化、前途には多くの課題《スタンダード&プアーズの業界展望》

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縮小



 りそなグループは相対的に収益性が安定しているが、公的資金完済を早期に達成できるような収益力の一段の向上という面では課題を残している。収益の強化には一般に、明確な戦略と一貫した実行力が重要である。

また国有化銀行への資金支援額は、総資産対比でみて他の銀行への支援額と比べて大きい、といえる。たとえば特別公的管理となった長銀、日債銀の場合、貸し出しを除く政府の資金投入額(貸し出しは除くが、国有化後の資本増強も含む)は2行合算ベースで11.7兆円と、国有化前の資産の30%に相当する。りそなグループの場合は資産の約10%、足利銀は12%だった。一方、メガバンクへの資本注入額は平均して資産の2%程度だった。また、メガバンクに注入された公的資金はすでに返済されているが、新生銀は60%、あおぞら銀は67%、りそなホールディングスは66%がまだ回収されていない。

多額の公的資金を必要としたことは、支援を受けた銀行の不良債権比率が高かったことに加えて、厳しい基準で資産評価を行い、徹底してバランスシートの健全化を図ったことなども影響している。また特定公的管理銀行を民営化した際には、不良債権問題の先行きが不透明であったことから、貸出債権の価値が20%以上下落した場合、譲渡契約を解除してスポンサーが政府に買い取りを請求できる「瑕疵担保条項に基づく解除権」が設定されていた。これも政府の負担を増やす要因であった。


海外の国有化の問題

海外の大手行については、財務内容が非常に痛んでいる場合を除き、政府は完全国有化をなるべく回避するかたちで再建を図っていくようである。問題は、さらに損失が拡大した場合、追加支援がどの程度必要であり、最終的な株式保有比率はどうなるのか。また債権者や株主はどのように扱われるのか、なお不透明な点である。りそなグループの再生事例は、業界全体として不良債権処理が、かなり進展して国内景気が回復局面にあった時期のものだが、現在の欧米の状況はむしろ1998~1999年頃の日本の状況に近い、といえる。

バランスシートの健全化については、米国政府は4月末までに大手銀行を対象とした健全性審査(ストレステスト)を実施する方針。英国政府も不良債権を分離して受け皿機関へ移す、いわゆるバッドバンク構想などを打ち出しているが、具体的内容は明らかではない。政府がコントロールを強めて、徹底した健全化をはかり、資本を注入すれば今後の不透明さは払拭されるが、他方で政府の負担は非常に大きくなる。また米英のケースでは銀行が日本に比べて大規模で複雑、かつ多数の海外拠点を有するため、運営上の課題も増える。たとえば、納税者の負担を減らすためには、海外業務の縮小が望ましいが、一方であまりに大胆なリストラを実行すれば、企業価値を低下させたり、撤退コストをかえって押し上げることになりかねない、というジレンマがある。他国の政府や規制当局との連携なども必要となろう。また、政府が事業戦略や雇用報酬などに過度に介入すれば、他の民間銀行との競争上不利となり、企業価値が低下してしまう。海外の国有化銀行の前途には、多くの課題が残されている。

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