コロナ後に「ニューディール政策」復活の可能性 岩井克人「新古典派経済学」超克の野望、再び

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しかし氏の経済学の探究心は並外れており、理論的に主要な経済学を網羅的に見渡せる、今や世界でも数少ない碩学中の碩学である(「24時間、学者をやっているのかもしれない」とも語っている)。

また経済学以外の分野の論考でも高い評価を得る思索家(thinker)でもあるが、「学者として『没落』した」ともよく語っている。その言葉の端からは、逆説的に学者としての成功を求める気持ちも持っていることが漏れ伝わってくる。

ただ、学者としての成功以上に学者として大切にしているものがあるのかもしれない。もしそうだとすれば、それは何なのだろうか。

自身からは明示的に語られることのないその「何か」を、氏の学者としての歩みから探っていきたいと思う。

サイエンス好き、SF文学好きから経済学の道へ

岩井氏は自伝の中で、サイエンティストの原点として、小学1年生時の『学習理科図鑑』(子ども用の原色図鑑)との出合いを語っている。転校してきた友達の家に遊びに行ったときに見せてもらい衝撃を受け、その後に自身用の図鑑を買ったという。お小遣いを工面しつつ、昆虫図鑑、動物図鑑、植物図鑑、天文図鑑といったシリーズを興味の向くまま購入していき、鉱物図鑑まで行き着く。

図鑑では、自然界の構造全体が見渡せるようになっており、次にそれを構成する動物界や植物界といった各界を分類的に見渡すことができる。最後には図鑑で個体一つ一つを具体的に見る。岩井氏は世界を全体的、構造的、関連的に捉えるようになる。

「私は、図鑑を通して、大げさな言い回しになりますが、世界をいわば鳥瞰図的に知ることになったというわけです。(中略)いずれにせよ、私は科学少年になりました」(『経済学の宇宙』9ページ)

鉱物図鑑まで買った後、買いたい図鑑がなくなり、SFを読むようになった岩井氏は小学6年時に物理学者ジョージ・ガモフの著作に出合い、相対性理論や量子力学の概念とともに「無限大」の概念を知ることになる。これが後の代表的な研究となる「貨幣論」のきっかけとなったという。

また同時に、ガモフの“副作用”により学校で教えている数学や理科に刺激を感じなくなってしまい、その反動で文学作品に興味を持つようになる。多様な作品を読み、文学青年を自覚するようにもなった岩井氏は、「科学少年」と「文学青年」の間で進路に悩み、最終的に経済学部を選ぶ。

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