なぜ日本では未承認? 遅すぎる新薬審査 <シリーズ・くすりの七不思議>

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 海外では使用が認められているのに、日本では認められていない薬がある。厚生労働省による承認が下りていないためだ。日本でも使えるようになるまでの時間差、それをドラッグラグという。

「いつか使えるようになる。でも、その日は来ないのかもしれない」

小関有希子さん(37)は1998年にガンの一種である消化管間質腫瘍(GIST)を発病した。そして2001年、日本ではGISTへの医療保険の適応が認められていない抗ガン剤グリベックによる治療を開始した。その効果は歴然で、腫瘍は7割も縮小した。

小関さんはグリベックのGISTへの適応拡大を求めて署名活動と陳情を行った。約30万人の署名が集まった。ようやく認められたのは03年7月。それまでの2年半、小関さんはアメリカの専門サイトからグリベックを個人輸入し、専門医による治療を受けた。この間に支払った治療費は総額約850万円に上った。

1カ月の治療費約40万円はすべて自己負担だった。だが承認されて以後は高額療養費制度の適用もあり、月約8万円、5分の1に低下した。難治性のガンであるだけに、小関さんの家族には「余命3カ月、延命治療をしても1年ももたない」と告げられた中での闘いだった。

現在は、グリベックの投与は、2カ月に1回でよくなった。

04年春、30歳のときに卵巣ガンと告知された片木美穂さん。手術と抗ガン剤治療が成功し、再発なく現在を過ごしている。06年に知り合った44歳の女性Aさんも同じ卵巣ガン患者だった。Aさんは知人から、米国では卵巣ガンにドキシルという治療薬が使われ、効果を発揮していると知る。だが、日本でドキシルは卵巣ガンへの保険適応がない。副作用を抑える薬の投与などを含め全額自己負担で1回約60万円をかけドキシルによる治療を開始した。だが、その後、体調を崩し、Aさんが2回目の治療を行うことはなかった。卵巣ガンは年間約6000人が発病、5年後の生存率は4割前後と言われている。

この現実に直面した片木さん。ドキシルは、99年に米国で承認され、世界80カ国で標準的に使われていることも知る。そしてドキシルの日本での承認を求める運動を開始した。昨年、2万8603人の署名とともに厚生労働省に要望書を提出した。

しかし、その4カ月後に厚労省から届いた回答は「抗ガン剤として最も重要な判断要素の一つである生存期間において、類薬と差が示されないことから、優先審査には該当しないと判断し、通常審査を行うこととした」というもの。他の薬に優先して承認審査を行うことはできず、順番待ちをしてほしいとされたのだ。今なお承認は得られていない。

世界より4年遅れる日本 新薬審査員が少ない!

日本には確かにドラッグラグがある。下図は日本製薬工業協会のシンクタンクである医薬産業政策研究所が調査したもの。00~06年の日本の新薬のうち、比較可能な54品目のドラッグラグは約4年だった。その内訳は製薬企業が開発に着手するまでで約2年、開発期間で約1年、承認審査の期間で約1年だ。

政府もドラッグラグの問題は認識しており、昨年7月、新薬の開発から承認までの期間を2年半短縮する方針を掲げた。政府は別の調査を基に、ドラッグラグは2年半ととらえており、これで欧米並みになると考えている。

 
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