明治の女子留学生 最初に海を渡った五人の少女 寺沢龍著 ~数奇な生涯を克明に追い知られざる歴史を丹念に描く
幕末から明治初年、福沢諭吉や伊藤博文など多くの日本人が欧米に留学し、近代文明や新しい思想、文化、教育、法制度などを学んで持ち帰った。ほとんどが男だが、女性が5人、それも6歳から16歳の少女がいた。1871(明治4)年暮れに岩倉使節団に同行する50人余の留学生の一員として訪米した。
後に女子英学塾(津田塾大学の前身)を設立する津田梅子、大山巌(明治の元老。元陸相)の夫人となる山川捨松、日本女性初の大学卒で女子高等師範学校(お茶の水大学の前身)の教授を務めた永井繁子らだ。
著者は定年後に文筆活動を始め、過去に3冊の歴史発掘の著作があるが、この本は137年前の日本出港から始まる5人の女性の数奇な生涯を、膨大な資料を渉猟して克明に追った歴史ノンフィクションである。
留学生派遣の事情、娘の渡航を決めた親たちの思惑、異文化の中での挫折と成長などに触れながら、本書のハイライトである帰国後の多彩な人生模様に移り、梅子、捨松、繁子の最期という終幕に至る。足跡の詳細が判明した3人の生き方を、フーガのような、追いかけ、重ね合わせる場面展開で描いている。
巧みな構成、梅子と伊藤の交流や徳富蘆花の『不如帰』と捨松の話など興味深い挿話は、読者を釘づけにする。責任感と高い志を持ちながら苦闘する明治の帰国女性の焦慮と苦悩、加えて日本の近代化の実相も読み取ることができる。
ただ、「起承」の鮮やかさに比べ、「転結」はやや起伏に欠ける感がある。主人公たちの人生を念入りに追うあまり、著者がいまなぜこのテーマに取り組んだかが浮き彫りにならずに終わっている。だが、そこを割り引いても、知られざる歴史と人生に光を当て、丹念に描き出した本書は読み応えがある。
てらさわ・りゅう
1935年大阪市生まれ。大阪府立大学卒業。97年、会社勤めを定年退職後、文筆活動を始める。著書に『薬師寺再興 白鳳伽藍に賭けた人々』『飛鳥古京・藤原京・平城京の謎』『透視も念写も事実である 福来友吉と千里眼事件』(いずれも草思社)。
平凡社新書 840円 283ページ
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