1年目から自分流貫く 三菱地所相談役・福澤武氏②

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ふくざわ・たけし 三菱地所相談役。1932年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。61年三菱地所に入社。営業部長、取締役などを経て94~2001年社長。会長を経て07年から現職。福澤諭吉のひまごに当たる。

昔は結核の既往症があるだけで入社試験でハネられました。いったん治ったように見えても再発することが多かったので無理もないことかもしれず、私の入社時も結核歴があるだけで不合格という時代でした。でもどういうわけか三菱地所にはその規定がなかった。入社時に28歳になっていることも問われなかった。ほかの入社試験が全滅だっただけに、自宅に電話がかかってきて、採用ですよと言われたときは本当にうれしかった。

 入社1年目のとき、経営効率化のために何か提案をしろと言われて、文書の横書きを提案したことがあります。日本語の縦書きは改行していくと、右手で文字がこすれる。今はどんな文書でもワープロですが、昔はインクをひたすつけペンで書いていたから手も真っ黒になる。こんな不合理はないと思っていました。それに目は横向きについているから、横書きのほうが早く読めるはず(笑)。年号の表記はこの50年以上、年賀状でも何でも私は西暦で通しています。換算する不都合もないですから。

物事を動かすには高いレベルでどう考えるか

自分ではまったく意識したことはありませんが、役員になってから合理的だと言われたことがあります。もしかするとそうかもしれません。

営業部長時代のことですが、三菱地所が抱える丸の内一帯のビルは、緑が見える皇居側でもほかの向きでも、同じビルなら賃料は同じでした。ビル賃料は本来、同じフロアでもエレベーターの隣は安いとか、眺望がよいところは高いとか、条件によって差を設けるのが普通です。でもそうしていなかった。もっとも同一賃料だったのには理由があって、石油ショックで物価が高騰して賃料を上げた際に、細かい設定をせずに一律に上げてしまったのです。一種の非常時の値上げ。それがずっと続いていたのですが、私は全面的に変えました。当たり前といえば当たり前ですが、単に前例を踏襲するのは適切じゃない。

私は会社の中で自分の立場で全力を尽くすことを心掛けてきました。そして全力を尽くし結果を出すには、自分のポストの視点で見ていてはダメだということも意識してきました。副長(部次長クラス)だったら部長の視点、部長だったら担当役員の視点という具合です。若いときには今のポストでこんなに大変なんだから、自分が部長になったら本当に務まるだろうかと心配したことがありました(笑)。でも物事を動かすには高いレベルでどう考えるか、そういった思考が大事なのです。

週刊東洋経済編集部
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