20代で抜擢の女性社長がタイで成功した理由 バンコクで実践する「人を大事にする経営」

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――木の精霊が憑依!? 

タイの人々は精霊を信じています。実際に一人の社員が精霊に乗り移られたように暴れ出した。他の社員は怖がって出勤しないし、会社を辞める社員も出る。注文は入ってくるのに、納期がどんどん遅れる。私自身、眠れなくなるし、血を吐く思いでした。1カ月、それが続いた。

精霊の祠を建て、高名な霊媒師にお祓いをしてもらってようやく収まった。大切なのは、いかにみんなの不安を取り除くか、そして社長の自分がいかに平静を保つか。私が動揺したら、さらに不安が広がりますから。

でも、事件を通して人の心に寄り添うことを改めて学びました。会社が社員を大事に思うから、社員も会社を大事に思ってくれる。もちろん、当社は全員が正社員。社員旅行には家族ぐるみで参加してくれます。

本当にタイですか?

売り上げが低下しても「雇用調整はまったく考えない」と幸長社長

――足元で、タイ経済は減速しています。

社長に就任して7年目です。6年目は最高益を更新しましたが、7年目は売り上げが20%落ち込んでいる。品質が向上した中国製品との競合が厳しいうえ、政府の新車補助金政策のおかげで中古車市場が縮み、当社の補修部品に影響が出ています。でも、雇用調整はまったく考えません。首になって喜ぶ人はいない。人が変われば、製品の品質もばらつきます。

――日系企業のタイ進出も減っていますが。

私が言うのも何ですが、もうタイじゃないような気がする。同業を見ても日系企業が多すぎるし、単純な業種にはもう税制上の特典も与えられない。今、タイに出て行けば何とかなる、と考えている会社には、本当にタイですか、本当に今ですか、と申し上げたい。

当社も、ここが踏ん張りどころ。他社のアセンブリの仕事を取り込んだり、親会社から新しい製品を移管する予定もあります。何としても頑張ります。それと同時に、私、「Yグローバル」という会社を立ち上げました。

事業内容はコンサルタントや経営管理、タイの服飾品などの製造・販売です。当社の社員も含めタイの女性たちは手先が器用。彼女たちが作る身の回り品をブランド化できれば、女性が自立する手助けになる。親会社には「本業に影響がないようにやります」と申し上げ、理解していただいています。新たに模索すること、学ぶことによって、また新しい人間関係が生まれる。楽しみですね。

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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