フェラーリが強気に値上げしても売れる理由 このブランディングは計算し尽くされている

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「488GTB」のリアスタイル。どこから見てもフェラーリには魅了されてしまう

つまり、正確にリサーチした需要見込みから1台少なく作れば、それを手に入れ損ねた1名が次の機会ではより熱心に購入しようとするし、需要があっても、限定数以上作らないことが、クルマの希少価値を更に高めるというセオリーだ。

さらに、フェラーリを5台以上所有しており、かつ、ここ2年以内に新車のフェラーリを買ったという条件を満たさない限り、ラ フェラーリ購入に向けての申し込みすらできないという敷居の高さである。その上で購入希望者の情報がフェラーリ本社内で吟味され、お眼鏡に叶った人物のみが合格?となる。

希少性をとことん追求する

もうひとつのポイントがこの限定生産システムに見られる希少性の追求だ。販売価格ありきで採算を考え販売数量を決定するのではなく、確実に売れる台数をつかみ、開発・製造経費を考えて販売価格を決定するという明快な戦略がここにある。どんなに評判が高く、市場から渇望されても当初アナウンスした台数しか作らないということが、さらにブランドの希少性を高めていく。

これは長い歴史を持つフェラーリだからできる特殊な世界だ、という意見もあるであろう。しかしフェラーリもまだ創業70年にも満たないメーカーであり、ランボルギーニは創業50周年そこそこ。さらには、パガーニ社という、たかだか創業15年あまりの新興メーカーが作る1億円を超えるスーパーカーも世界中から引っ張りだこにあるという現状もある。

これらスーパーカーメーカー達がどのようにみずからのブランドを構築し、それを育てていったプロセスを学ぶことは、あらゆる商品がコモディティ化していく現在において、いかに自社の商品の価値を高めるかということを考えさせられる。

越湖 信一 PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表

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えっこ しんいち / Shinichi Ekko

イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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