増加する「爆買いしない」中国人たちの本音 彼らは何を思い、どこへ向かうのか?

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彼らは銀座の大通りの路肩に座ったり、炊飯器を10個も買ったり、「白い恋人」を30箱買ったり……という、いわゆる「爆買い」はしない。日本旅行に“買い物以外”の楽しみを見出している。そう、富裕層の一部はすでに「爆買いしない」層なのだ。

この男性家族の目的は「癒し」だった。家族だけで貸し切りの温泉に入り、個室を予約して、手の込んだ日本料理に舌鼓を打つ。リラックスすることが目的なので、誰にも邪魔されたくないと思っている。中国では売上高などの数字に追われ、厳しい仕事に追いまくられているからで、日本に来たときくらい、のんびりしたい。中国に比べ、早く発展した日本の旅館は少々古びてはいるが、ソフト面が充実しているため、居心地がよいという。

日本に来てまで「中国」を感じたくない

そんなサービスの行き届いた日本旅行を満喫中、最も嫌なのは、静かな環境をぶち壊されること。たとえば、以前、京都の清水寺に行く坂道を歩いていたとき、背後から人がどーんとぶつかってきたことがあった。「なんだ?」と思って振りむいたら、50~60代くらいの中国人数人がわいわいしゃべっていて、自分を押しのけたのだ。

強い衝撃にびっくりして思わず振り返ったら、がなり声の中国語が聞こえてきたという。

「もううんざりっていうか……。一瞬にして上海に引き戻されましたね(笑)。団体ツアーの人たちで、周囲の迷惑を顧みず、細い坂道でギャーギャー騒いでいまして。自分は同じ中国人ですが、残念な気持ちになりました」

中国人の富裕層は日本のレストランにも「高い質」を求める(写真提供:林翔氏)

この男性は差別意識でいっているわけではなく、「自分はただ静かに過ごしたいだけなんだ」と力説する。人口が多く、さまざまな階層の人が混在する中国での生活は競争が激しく、彼いわく“まるで戦場”みたいなものだ。最近は少しずつ落ち着ける店もできてきたが、まだまだ少ない。

週末に家族で高級レストランに行っても、店員の教育が行き届かないこともしばしば。急速にサービスの質がアップしているとはいえ、日本とは比べものにならない。日本の高級店で受けるサービスは、中国人から見れば“殿様気分”に浸れるほど気分のいいものだ。

だから、 “癒し”や“リラックス”を求めて来日しているのに、そんなときに“中国”に引き戻されたくないという。むろん、初めての日本旅行を楽しんで、はしゃいでいる彼らの気持ちもわからないではない。ただ、同じ空間にいたくない、というのが彼のささやかな願いなのである。

以前、私は著書の中で「中国人にはマイナス100からプラス100までの幅広い層がある」と書いたことがあった。それくらい中国人は多種多様で、さまざまな人がいるが、日本では突拍子もない人に出会う確率はずっと少なく、“安心”できるのだ。

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