また新興国においては、大手製造業者が大型投資を行って工場を設立するよりも、機動的な小規模企業やベンチャーが3Dプリンタによる少額投資を前提にフレキシブルな生産体制を組み上げたほうが効果的である可能性もある。
従来は実現できなかった形状・構造が可能に
多品種生産対応やオンデマンド生産対応は、いずれもコストさえかければ既存の工法でも形状自体は実現可能なものである。他方、③の新形状・新機能の実現については、3Dプリンタでなければ実現不可能な形状や機能を製品・パーツに持たせることが可能であることを意味する。
応力計算に基づく軽量化デザインの実現や、中空形状・複雑形状・微細加工・一体成形の実現、電子回路の内蔵などが該当する。前述のヘッドホンの「バイオミメティック・グリル」も、この特徴を生かしたパーツである。
新形状・新機能の実現については未だ構想段階の部分も大きいが、「バイオミメティック・グリル」のように「3Dプリンタでしか製造できない形状」から、まったく新しい価値が生まれる可能性がある。
たとえばドイツのNeoTech AMTが開発した3Dプリンタは、立体曲面に沿って電子回路をプリントすることが可能だ。この技術を応用すれば、これまで不可能だった方法でセンサーを取りつけられる。
近年大きく話題になっているIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の文脈においても意義を見出す余地がある。
ただそのためには、これまで実現不可能であった形状・構造についても考慮に入れて検討を行うなど、既存のモノづくりの方法論から脱却した形での設計思想が求められるだろう。それによって、競合他社との差別化の幅も大きく広がることになる。
3Dプリンタ活用検討の本番へ
「メイカーズ・ムーブメント」などで3Dプリンタが大きな話題となってからしばらく経ち、ひところのブームも落ち着いたかのように見えるかもしれない。3Dプリンタが抱える制約や課題(大量生産に適さない、最終製品として使う上での安全性や耐久性という意味では疑問が残る、など)が多くの検証を経て明らかにされてきたことも、その理由のひとつだろう。
しかし、それらの課題を解決する検討も進んでいる。たとえば従来の25~100倍の速度で光造形が可能な機種や、製造途中で品質チェックを行うことが可能な機種の開発、独自の品質基準の検討などが、海外のベンチャーや3Dプリンタメーカーを中心に研究されており、実用化が近いものも多い。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら