残忍なテロリストに「勝つ」にはどうすべきか 未来を脅かす闇は根絶しなければならない

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自分たちとは異なる宗教や民族に矛先を向けるポピュリストによる扇動は、人々の連帯が必要なときに社会を分断する。それではテロリストたちの思うつぼだ。

最近トルコで開催されたG20会議では、外交が大きく前進した。ライバル関係にある中東地域の大国、スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランが、スンニ派グループとシーア派グループ、西アジア諸国の間にある敵意を抑制する責任に直面せざるをえなくなった。

正しい政治目標と外交の優先順位が極めて重要だ。しかしもっと大規模な、もっと効果的な、もっと調整された軍事的努力なくしてイスラム国は倒せない。イスラム国はシリアとイラクの一部を勝手にカリフ国の領土だと主張しているが、これら地域から追い出さねばならない。

軍事介入を強化すれば、さらなる惨事が起きるかもしれない。しかし文明社会に対する攻撃はイスラム国を完全に壊滅させるまで続く。私たちの側ではテロ攻撃阻止にただ一つの失敗も許されないのに対して、テロリストの側は、たまに成功するだけで目的を達せられるからだ。

国際秩序が問われている

軍事介入に反対する人たちは、イラクとアフガニスタンでの失敗を引き合いに出す。が、榴(りゅう)弾(だん)を使わず巧みな言葉を武器にイスラム国を攻撃するだけでは、安全確保は難しい。

地上軍のほとんどは、アラブ人、イラン人、クルド人民兵組織のメンバーを含むクルド人で構成するしかないだろう。しかし、彼らにはもっと強力な支援が必要だ。空爆や武器・訓練の供与だけではなく、西洋諸国の特別部隊の支援も必要だ。

また、NATO(北大西洋条約機構)は加盟国であるフランスが攻撃を受けたと認め、相互防衛を保証する北大西洋条約5条を発動すべきだ、との主張もある。

けれどもこれは、欧州だけの戦争でも、米国の戦争でもない。問われているのは、安定かつ繁栄している世界の国際秩序だ。ロシアと中国は、イスラム国掃討は自らの戦いでもあるとの立場を、国際連合の安全保障理事会で明確にすべきだ。

パリの同時テロで犠牲となった若者たちの死を、決して無駄にしてはならない。私たちは彼らの死を厳粛に受け止め、光の都パリの惨事を、未来を脅かす闇の根絶にしっかりと役立てるべきだ。

クリス・パッテン 英オックスフォード大学名誉総長

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Chris Patten

元英国保守党議員で最後の香港総督。欧州委員会外交専門部会委員、英オックスフォード大学総長を歴任。

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