「しくじり先生」出演者はなぜ愛されるのか? 制作陣が語る、しくじりを"転換"する秘訣
そうして本人と会って、話が盛り上がってきたところで、しくじりについておもむろに持ち出します。例えば織田信成さんだったらバンクーバーオリンピックでのアクシデントを引き合いに、「靴紐が切れたことがありましたけど、あれはどうだったんですか」と話を聞いていきます。一応、企画書には「しくじり先生 俺みたいになるな!!」とタイトルを入れているので、「過去にしくじった話をしてもらって、みんなで笑う番組なんです」と、そこで初めて詳細についてお話します。過去にそれでブチ切れられた方はいません。会うまでは大変なんですが、会いさえすればなんとかなります。
金井:交渉するときに「いや、私はしくじってないですから」、「今更、言うことでもないですし」と言われて門前払いされるケースは多々ありますし、入り口でほぼ7割は削られていますが、出演さえしていただければ、誰もが心変わりしていただけます。
打ち合わせと称して、タレントさん、マネージャーさん、うちのディレクター、放送作家で3時間のミーティングを少なくとも3回はやるのですが、そこで、言える話と言えない話を精査していって、こういう表現ならできる、できないという話を積み重ねていくと、出演した方は大体みなさん「出てよかった」と言ってくれます。
愛されるしくじり話は「すべて自分のせい」
——「愛されるしくじり披露法」について、ポイントを教えてください。
北野:まず大前提として、自分がしくじった話をしたほうがいいと思うんですよね。そのほうが絶対に愛されますし、周囲も笑いながら話を聞いてくれます。たとえば飲み屋で自慢話ばかりしている上司は嫌じゃないですか。過去の武勇伝みたいな話を聞かされても、「なんだ、コイツ」と思うだけです。それが「酔っ払って寝て起きたら、横に知らないオジサンが寝てた」みたいな話だったら、すごくおもしろいじゃないですか。「超美人のモデルと寝た」といった話より、そういった話のほうが断然聞きたくなります。
あと、「この人いいなぁ」と思うしくじり先生たちは、ちゃんと反省しています。「こうしたらよいよね」という、自ら導き出した解決法まで披露できたらベストです。要するに自分のしくじりをしっかりと認めて、自己分析できているかどうかが肝心。
僕らは打ち合わせでそこを手伝っています。誰もが何かしらしくじったことがあるからその場に来ているわけですが、何故しくじったのかが分かっていない人もいれば、「あれはもう忘れたいんだ」とあえて遠巻きにしたままの人もいます。そういった、誰もが潜在的に持っている「しくじりに蓋をしたい気持ち」をあえてほじくり返して、「ところで、なんでしくじったんですかね」と、自分で自分のしくじりやその要因について気づいてもらう機会を、3時間3回持ってもらいます。
——まるで禅修行のようですね。
北野:そうですね。打ち合わせの間にスタッフからさまざまな質問をされて、それに答えていきながら、自分がしくじった要因をとことん自己分析していく。その「気づき」の集大成を本番で披露しているから、しくじり先生は愛される。「あ、オレがしくじった理由はこれか」と、本人が根本的な要因に気づいた状態のまま収録に挑むじゃないですか。収録の時までには、すべて消化されきっているので。自分自身でしくじった原因もよくわかっていますし、教訓を導き出せるほど心が整理されているからこそ、笑いに変えられます。
——その3回行われる3時間の打ち合わせは、しくじり先生になる前のタレントさんたちが、内省し、悟りを開かれるまでの時間なんですね?
北野:そうです。まずはしくじったということを自覚してもらい、おもしろおかしく話せるところまでケアをする時間です。だから、教科書も、何回も音読し、練習し直します。
——反省はできても、解決策まで出せない人はどうするんですか。
北野:そういう人は解決策を無理やり出さなくていいと思います。反省までできたのだから、笑い話にすればいいんです。
——万人ウケする、失敗しない笑い話に仕上げるにはどうしたらよいでしょう。
北野:自分だけの話にしたら大丈夫ですよ。相手が笑えないという場合は、自分以外の人の、誰かの悪口が入っているからでしょう。たとえば会社だったら、その場にいない上司だったり、同僚をネタにしていたりするから、笑えない人が出てくる。それはダメです。しくじり先生の美徳からはずれてしまっています。
金井:しくじり先生は欠席裁判をしないというのがルールです。人の悪口を言わず、自分が主体的にやったことのみを話すのが大前提。