ヒトと犬がネアンデルタール人を絶滅させた

ヒトは史上最強のインベーダーだった

これで、ネアンデルタール人と現世人類がともに過ごした期間は2600~5400年程度に短縮された。この共存の時代に、ネアンデルタール人と現世人類が同じ種類の食物に依存しており、新たな侵入者である現世人類がネアンデルタール人の取り分を奪っていたことがわかれば、ヒトが絶滅原因だという仮説は一歩前進できる。4万年前のネアンデルタール人や現世人類は何を食べていたのか、最新の研究は実に多くのことを明らかにしている。たとえば、ネアンデルタール人の歯石や石器の形状、さらには化石に含まれる同位体分析から、ネアンデルタール人は植物をほとんど食べておらず、長期的に肉を主食としてきたことが確かめられている。遺跡の調査からはその肉がどのような生物に由来するかもわかるのだが、果たして、ネアンデルタール人と現世人類はかなりの部分で食物資源が重なりあっていたのだ。

ハンティングの腕前に差が出た理由

それでは、同じ食物をめがけて競い合ったネアンデルタール人と現世人類は、どちらがよりよいハンターだったのか。そして、そのハンティングの腕前の決定的な差を生み出した要因は何だったのか。議論はオオカミを家畜化した末にヒトが手に入れた、イヌの重要性へと展開していく。ヒトとイヌの深いつながりが例外的に大きなヒトの白目(強膜)にも現れていることなど、興味深い事実が次々と例示されていく。そして著者は、形態学や遺伝学からはオオカミとイヌを区別することはできず、「オオカミでなくイヌであることは、その行動と人間との関係からしかわからない」と説く。

本書は後半へ進むほど仮説の割合が多くなってくる。もちろん、著者は自らの説に更なる検証が必要であることは百も承知であり、本書を通して「きわめて一貫したストーリーがみえてくるのだが、しかしまだ欠点や不明点でいっぱい」であると述べている。本書からは一貫したストーリーとともに、古人類学の分野が日々新しい発見に満ちあふれた刺激的なものだということがひしひしと伝わってくる。

2015年10月に発表されたヨーロッパよりも先に中国に現世人類が存在していた可能性を示す研究が話題を呼んだが、本書の内容とあわせるといろいろなストーリーが浮かんでくる。気候が温暖なときはより体格の大きなネアンデルタール人のテリトリーであるヨーロッパを避け、競争相手のいない地で狩りやコミュニケーションのスキルを磨いた後に、寒冷期を迎え集団規模が小さくなったネアンデルタール人のいるヨーロッパにイヌを携えて再挑戦したのかもしれない、などとついつい考えてしまうのだ。科学は過去をどんどんと新しくしていく。本書を読めば、そんな新しい過去をより一層楽しむことができるようになるはずだ。

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