ヒトと犬がネアンデルタール人を絶滅させた ヒトは史上最強のインベーダーだった

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ペンシルヴァニア州立大学名誉教授で古人類学の専門家である著者は、「侵入生物」をキーワードにこの大問題に挑んでいく。侵入生物とは「それまで(過去に)生息したことのない新しい地理的領域へ移動した生物」であり、侵入生物は生態系に広範にわたる影響を及ぼし、日常的に絶滅を引き起こしている。「IUCNレッドリスト」に掲載された絶滅動物・絶滅に瀕している動物全680例の分析結果は、侵入生物こそが最も一般的な絶滅原因だということを示している。そして、古生物学的タイムスケールでみれば、私たち人類はアフリカを除くあらゆる場所へと侵入した「生物史上最も侵入的な生物」となるのである。

史上最強の侵入生物、ヒトとイヌ

書名にあるように、”史上最強の侵入生物であるヒトとイヌがネアンデルタール人絶滅の大きな要因となった”という大胆な因果関係をより確実なものにするために、著者は仮説の土台となるファクトを徹底的に吟味するところから本書をスタートさせる。そもそも、ネアンデルタール人と現世人類はどの程度交流があったのか。両者が異種交配していたことは、科学的に広く認められるようになってきたが、いつ、どこで、どのくらいの時間を共有してきたかについては結論が出ていない部分もある。

著者が本書の執筆にとりかかった頃、ネアンデルタール人と現世人類はどちらも5万~2.5万年前のユーラシアに生息したと考えられていた。2.5万年もの長い時間を共有していたとすると、侵入者としての現世人類のネアンデルタール人絶滅への影響はとても緩慢で、侵入生物学的視点からはヒトの侵入が絶滅へ寄与したとは考えにくくなる。そもそも、5万~2.5万年前という数字はどこから導き出されたものなのか、著者は年代測定に潜む落とし穴をひとつずつ潰していく。

年代測定といえば放射性炭素年代測定がまずは頭に浮かぶが、その測定には理論的な限界とエラーが入り込む実際的な困難さが伴っている。そして、現代の炭素による試料の汚染などに最新の注意を払った2012年の研究などから、ネアンデルタール人が約2.6万年前まで生息していたという従来の説を明確に否定された。これらの研究によりネアンデルタール人は、4万年前以降には恐らく生存していないと結論づけられたのである。本書では、このような古代を扱う研究がどのようにデータを基に進められているか、データを読み解く際にどのように注意すべきかを詳しく教えてくれる。

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