マイナンバーで「投資税制」はこう激変する 金利税制「天国と地獄」の終わり

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「証券会社や銀行にマイナンバーを教えなければ、税金を払わなくてもわかりゃしないだろ」と考える人もいるだろう。

そうかもしれないが、私はお勧めしない。

「税金を取る側」はそんな人物や口座ほど念入りに調べるだろうし、場合によっては追徴や告訴もありうるからだ(ひょっとするとそれが目的で、義務化をわざと遅らせているのかもしれない)。まっとうに稼いできちんと納税している人にとって、マイナンバーは恩恵のほうが大きい。すみやかに参加して公平な徴税を後押しするべきと考える。

マイナンバーのリスクと大きな恩恵

マイナンバーは、「徴税の公平性・効率性」に大きく役立つ。

たとえば地元の顔役や反社会組織に対し、税務捜査するのは勇気がいる。もし途中でバレたら、左遷されたり身に危険が及んだりするかもしれない。しかしマイナンバーなら顔が見えない。機械的・事務的に処理し、従わないなら政府サービスを停止するなどの「制裁」もシステマティックに行うことができる。相手が誰なのかわかったうえで調査・処分するよりも、ずっとプレッシャーが少ない。

仮に内部に便宜をはかろうとする人物がいても、「なぜ同じように徴税・処分しないのか」という理由をつけて行動を起こさなくてはならない。これでは不正に加担した痕跡が残ってしまい、バレたときに自分の立場が危うくなる。「人物」から入る徴税は不作為(徴税しないこと)による利益供与が可能だが、「番号」から入る徴税はそれが難しい。人間である以上、癒着や不正がなくなるとは思わないが、税に関する不正はずっと難しくなりそうだ。

マイナンバーにはまだ不安な点も多い。国による監視が簡単になる分だけ、使い方によっては恐ろしく窮屈な社会になるかもしれない。また、セキュリティが甘ければ、情報漏洩・脅迫・なりすましなど「より効率的に」犯罪を行う助けにもなる。あるいは徴税が楽になったことで、無駄な政府支出が増える可能性がある。

しかしこれらは「徴税の効率性」とは別の問題なので、それに対応したシステムや納税者による監視が必要になるだろう。

マイナンバーはあらゆる事務手続きを簡素化し、公平で効率的な徴税そして公的サービスの基盤となる。ぜひとも不正利用できない仕組みを構築してもらい、国民がその恩恵を最大限に受けることを期待したい。

安間 伸

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 一橋大学法学部を卒業後、三菱信託銀行にて債券デリバティブ・トレーダー、その子会社の投資顧問会社でファンドマネージャーとして資産運用の道へ進む。その後シティトラスト信託銀行に移籍し、個人富裕層向けグローバルバランス商品の運用を担当。特にグローバル投資、裁定取引、投資モデル開発、投資税制などに精通する。 いつも投資収益を最大化することばかり考えている筋金入りのコントラリアン(逆張り投資家)。平均的な指数に追随しなくてはならない仕事に疑問を感じ、従業員として働くことにも疲れたので2002年に退社。2006年6月ワイルドインベスターズ株式会社を設立。投資助言を本業としながら「日本を投資大国にする!」ための情報提供を続けている。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)金融コース卒。CFA(AIMR認定証券アナリスト)。著書に『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金篇』、『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ2 タブーとリスク篇』『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ3 「錬金術入門」篇』『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ4 新バフェット流で資産運用』(東洋経済新報社刊)などがある。
 

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