中国工商銀行(ICBC)は時価総額が世界一の銀行であるが、資産規模では欧米銀行のほうが大きい。これはICBCに限らず、中国の巨大銀行に共通した特徴だ。
こうなる原因は、前回でも述べたように、政府の金利規制によって利ザヤを保証されているからだ。中国の国有銀行は、大規模な不良債権処理が行われた1998~99年には多額の政府支援を受けたが、今でも政府の強力な庇護下にあるわけだ(もっとも、中央銀行預金として預金の20・5%を要求されるので、利ザヤ保証はやむをえないとの議論もある)。
銀行業として効率が高いから利益が大きいというわけではない。実際、国有銀行が上場を控えた2005年頃には、ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカの出資を受け、業務についての指導を受けた。社会主義経済には商業銀行業務というものはなかったのだから、当然のことだ。
政府との密接な関係は、さまざまな歪みを生み出している。
まず、権力集団の内部で、政治とビジネスの癒着関係が生じていると考えられる。国が国有銀行株式の8割以上を所有しており、国有銀行と国有企業の幹部の8割は「太子党」(共産党高級幹部の子弟)と言われる。米・ニューヨーク・タイムズは、太子党が権力と人脈を利用して、中国経済を牛耳っているとの記事を載せた(5月17日)。金融は既得権益の岩盤だ。
06年、ICBCのIPO(株式新規公開)にあたって、株式の7%を持つゴールドマン・サックスが引受幹事候補から外され、メリルリンチが幹事になった事件があった。これは、150億ドルのIPOで3億ドルの手数料という巨額の案件だったため、話題を呼んだ。利益相反の懸念があるというのが表向きの理由だったが、中国共産党幹部の関与があったとの報道もなされた。
景気対策を担った金融システム
問題は、このような個別のものだけではない。もっと大きな歪みはマクロ的なものだ。