フジテレビのドラマがなんとも「惜しい」理由 あの成功体験に縛られすぎていないか

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もともと当作は、同性支持の厚い篠原涼子さんをヒロインに据え、『ラスト♡シンデレラ』のスタッフをベースにするなど、「女性ウケのマーケティングは万全のはずだった」のかもしれませんが、軸の部分が少しズレているため「惜しい」のかもしれません。

キャスティング先行でいいのか

ここまでそれぞれの作品が「惜しい」理由を挙げてきましたが、裏を返せば、フジテレビは、それだけ試行錯誤を繰り返しているということ。『相棒』の大ヒットで連ドラの半分近くが1話完結の刑事ドラマばかりになってしまったときも、フジテレビはさまざまなテーマのドラマに挑戦していました。

実際、前期の『恋仲』『HEAT』『リスクの神様』『探偵の探偵』はバラバラのテーマで連ドラらしさを追求していましたし、飛び抜けて優れた作品はなかったものの、「こんなドラマを作りたい」という意志を感じるものだったのです。

しかし、「惜しい」ところで留まっている理由は、冒頭で書いたような「局そのものが嫌われているから」ではなさそうです。私が最も気になっているのは、キャスティング先行のドラマ作り。いずれの作品も、ネームバリューのある主演を据えてから、その人に合うテーマや筋書きを用意しているようなイメージが強いのです。

フジテレビ絶頂期の1990年代は、そのような作り方が大きくウケていたのですが、ここ数年のヒット作を見ると、むしろその逆。近年最大のヒット『半沢直樹』(TBS系)『あまちゃん』(NHK)も、今年の『天皇の料理番』『下町ロケット』(TBS系)も、あくまでテーマありきで、キャスティングはその次に考えられていました。

「この主演ならある程度、視聴率が取れるだろう」、視聴者はそんな思惑を感じ取っているのかもしれません。その意味で、今やキャスティング先行の作品は、「スタートこそ話題性抜群だが、すぐに“出落ち”しやすい」リスクの高いモノ。フジテレビのドラマが浮上するためには、「自分たちが考えるヒットの方程式からいかに離れるか」が求められている局面なのかもしれません。

いろいろ書いてきましたが、ドラマに懸けるフジテレビの情熱は本物。私自身フジテレビのドラマが好きであり、挑戦し続ける姿勢に共感を覚えているので、シビアに見ながらも楽しみつつ応援しています。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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