まるでゆでたような状態…カメの死が教える善意の悲劇"――獣医病理医が遺体に抱いた違和感。不適切な飼育情報が招いた悲しい出来事の顛末

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飼育容器としていたプラスチックケースごと持参されましたが、中に入っている水とクサガメの遺体に手で触れたとき、ぼくは小さな「違和感」を覚えました。とはいえ、病理診断に先入観は禁物。普段通りの手順に沿って、解剖に取りかかります。

カメの解剖では、甲羅を開かなければ内臓を観察できません。まずは背中側の背甲とお腹側の腹甲のつなぎ目を切り離し、甲羅を開きます。

硬い甲羅はメスでは歯が立たないので、小さなノコギリや、ある程度大きなカメでは電動ノコギリを使います。内臓は甲羅の中にコンパクトに収まっているため、甲羅を開いてしまえば、以降の観察は比較的スムーズに進められます。

内臓を傷つけないように気をつけながら甲羅を外して、内臓を取り出します。それらをよく観察したところ、複数の臓器が赤黒くうっ血していました。その後、各臓器について顕微鏡で詳細に病理検査を行いましたが、飼い主さんが懸念されていた“感染症を疑うような病変”は確認できませんでした。

カメに日光浴をさせていた

ぼくが最初に抱いた違和感――それは、プラスチックケース内の飼育水がお湯のように温かかったこと、そしてクサガメの遺体の体温が高かったことです。

病理解剖で観察された臓器のうっ血は、突然死でしばしば見られる所見です。体温が上がりすぎたとき、生き物は体から熱を逃がすために血管を広げ、血流を増やします。結果、臓器に血液がたまり、うっ血することもあります。

改めて今回の依頼者さんに、クサガメが死亡する直前の状況を詳しくヒアリングしました。

子どもが飼い方を調べたところ、「本やインターネットで『カメには日光浴(甲羅干し)をさせましょう』と書いてあったので、毎日、欠かさず日に当てていました。今日も、亡くなる直前までベランダで日光浴をさせていました」とのことでした。

カメという動物は、生きるために日光浴を必要とします。それは、主に次の3つの理由からです。

1つは、体温の維持のため。カメは爬虫類であり、体温を外部の温度に依存する外温性動物(変温動物) です。私たち人間(哺乳類)や鳥類のように、自分で体温を維持することができないのですね。そのため、彼らは甲羅に日光を浴びて体温を上げ、体内の代謝を高めています。

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