"日本の防災"が抱える欠陥!? 「善意の混乱」にどう対処するか——危機対応のスペシャリストが伝える「国難級災害への備え」

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では、いったい誰が“適材適所”に人材や技術を配置するのか。その考え方こそが「統合運用(ユニファイドコマンド)」だ。災害が起こるたび、秋冨さんはこの統合運用の重要性を訴えてきた。その原点にあるのは、05年に起こったJR福知山線脱線事故だった。

外科医だった秋冨さんは、医療活動のため現場を訪ね、対応にあたる。そのときに統合運用の必要性を、身をもって体験した。

「災害時の救出活動の問題の1つに、『クラッシュ症候群』というのがあるんです。これは、がれきなどの重いものに長時間挟まれていた人が、救出された直後に心停止に陥って亡くなるという状況をいいます」

クラッシュ症候群は、圧迫が解かれて一気に血流が回復することで起こる出血性ショックや、筋肉の損傷で作られた毒素(カリウムやミオグロビンなど)が瞬時に全身を回ることで発生する。レスキュー隊から「あとちょっとで助かるから」と言われ、笑顔になった被災者が、がれきのなかから助け出された直後に心停止することから、「Smile death」との異名を持つ。

このクラッシュ症候群を防ぐには、人ががれきで圧迫されているときから、大量の輸液を行って血液を薄める必要がある。福知山線脱線事故では、救出にあたるレスキュー隊と、挟まれている人に輸液を行う秋冨さんら医師の連携で、多くの命を救うことができた。

「この件で、それぞれのプロフェッショナルが連携し合うことで、救える命があることを経験した。混乱した現場では、それぞれの組織からの指示系統だけではぶつかり合いにもなりかねない。災害が大規模であるほど、複合型であるほど、バックヤードからの統括的な指示、つまり統合運用が重要になる」

秋冨さんは、そのためのシステム――「インシデント・コマンド・システム(以下、ICS)」を、何年もかけて研究して日本に社会実装してきた。

ICSとは何か

ICSはわかりやすく言えば、医療・福祉、警察、消防、行政といった危機管理に携わる組織を機能(Function)という視点で考えることをいう。災害現場や事件現場などで円滑な支援を行うために必要な標準化されたオペレーションシステムで、アメリカで始まった考え方だ。

ICSのイメージ図
ICSのイメージ図。災害現場や事件現場などで円滑な支援を行うために必要な標準化されたオペレーションシステムとなっている(画像:秋冨さん提供)

実際にはNATOや自衛隊のみならず、世界中の行政内の危機管理体制はこのシステムで動いている。災害対応の成否は、最初の24〜72時間でほぼ決まる。その時間帯に“誰が何をするか”が曖昧なままでは、どれほど物資や人員があっても意味をなさない。

アメリカにはナショナル・インシデント・マネジメント・システム(NIMS)という骨組みがある。2001年の同時多発テロをきっかけにまとめられたもので、自然災害や事故に限らず、有事の際に運用される。

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