"老いるショック"の悲劇「トイレで死闘10分」の結末――樋口恵子さんが経験した「和式」の落とし穴。50代の膝痛を放置してはいけないワケ

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お悔みごとがあって娘と一緒に地方へ出かけ、帰りにトイレを拝借しようかと思ったのですが、見るからに典型的な日本建築。もしかして和式かもしれないと思い、がまんして近くのスーパーマーケットに行くことにしたのです。

思えばこれが痛恨の判断ミスでした。2つあったトイレは、なんとどちらも和式。でも自然の呼び声が差し迫っていたので、とるものもとりあえず用を足しました。そのあと、やっぱり立てない!

足は痛くなるし、個室の壁面はツルツル真っ平らで、摑(つか)む場所はどこにもありません。

そのとき、コツコツと生意気そうなハイヒールの音が近づいてきました。長いので心配して見に来た娘なのか。

「ヒグチさ〜ん! ヒグチさんだったら、このドアを開けてください。立てなくなりましたァ!」と大声をあげました。ややあって鍵を開けてあったドアが開き、仁王立ちしている娘の姿が。

しょっちゅうバトルを繰り広げている親子ですが、このときばかりは娘の“仏頂面”が“仏様”のご尊顔に見えました。

私は日頃から、「高齢者よ、町へ出よう」と提唱しています。なるべく人と交流し、張り合いをもって暮らすことが、認知症や歩行困難などの予防になると思うからです。

社会に高齢者が生きる姿を可視化することが大切です。それが結果的に高齢者たちの医療費を減らし、高齢社会のために使われる財源を守ることにもなります。

公共のトイレに手すりを

でも、外に出るには、安心・安全なトイレがあちこちにあることが不可欠。車いすが入れるバリアフリーのトイレを完備している場所もありますが、それだけでは足りません。

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まずは公衆トイレの洋式化を進めていただき、せめてとりあえずの措置として、「すべての公共の場のトイレに手すりを」を合言葉にしていただきたいのです。

国連が2015年のサミットで採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」。合言葉は「誰も置き去りにしない社会を」で、持続可能な開発目標SDGsとして、17の目標をあげています。

「ジェンダー平等」はもちろん入っていますし、そして6番目の目標は「水と衛生へのアクセス」。世界には、トイレや公衆便所など基本的な衛生サービスを利用できない人が約42億人いるとか。

その問題が先決には違いありませんが、私たち先進国においても、体力の衰えた高齢者が立ち上がれなくてトイレの個室に「置き去り」にされないよう配慮していただきたいと思います。

樋口 恵子 東京家政大学名誉教授/NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」名誉理事長

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ひぐち けいこ / Keiko Higuchi

一九三二年東京生まれ。東京大学文学部卒業。時事通信社、学研、 キヤノン株式会社を経て評論活動に入る。著書に『老~い、 どん! あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』『老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88』などがある。

 

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