日本の金融教育で教えてくれない「いちばん大切なこと」/商品や制度の説明に終始する現状、真に役立つのはシンプルで明確な「行動のルール」だ
日本の家計データを用いた研究では、金融知識が一定程度ある人ほど、自分の判断力を過信し、リスクの取りすぎや不要な金融取引に陥りやすいことが明らかにされている。
基本的な用語や制度を理解した段階で、人は自分を「わかっている側」だと認識し、市場平均を上回れると錯覚しやすくなるのである。
また、個人投資家の行動を分析した海外の研究でも、自分を過信する投資家ほど売買回転率が高く、取引コストの増加によって長期的な運用成績を悪化させていることが繰り返し確認されている。これは知識不足の問題ではなく、人間の意思決定に内在する行動バイアスの問題である。
行動経済学が示すように、過信バイアスは、知識が増える過程の中途段階で最も強く現れることがある。
だからこそ、金融教育は単に知識を積み上げるのではなく、「どの段階で人は最も誤りやすいのか」を前提に設計されなければならない。明確な行動原理を示すことは、判断の自由を奪うことではなく、むしろ人々を大きな失敗から守るためのガードレールなのである。
シンプルで明確な「行動のルール」を
こうした問題意識から、私は金融商品や制度を網羅的に説明するのではなく、価格が動くメカニズムと、人が誤りやすい行動特性を軸に据えた経済学の教科書を書いた(『経済学Basics』新世社、2025年)。
目指したのは、「増えるらしい」で終わる金融教育ではなく、「なぜそうなるのか」を自分の言葉で説明でき、そのうえで迷わず行動できる力を身につけることである。
真に役立つ金融教育には、知識だけでなくシンプルで明確な「行動のルール」が必要である。「どの商品を選んでもよい」という中立的な態度は、初心者には「何をしていいかわからない」のと同じである。経済学の理論と歴史的データに裏付けられた「原理」をはっきり示すべきである。
これらは特定の商品推奨ではなく、経済理論と歴史的データに裏付けられた「原理」である。行動経済学の観点から言えば、これは最適化の指南というよりも、大きな失敗を避けるための最低限のルールである。個人の自由な選択を尊重しつつ、取り返しのつかない失敗から守る「ガードレール」なのである。
しかし、私たちは証券口座の中だけで資産運用をしているわけではない。人生最大の買い物である住宅購入において、多くの日本人が無自覚に「ハイリスク投資」を行っている事実には、驚くほど無頓着である。



















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