──マイナスカードですか。真山さんより少ないけど玉三郎さんも持っている?
もちろん。彼は幼いころにポリオにかかり、後遺症を抱えているし、女形としては背が高いだけでも致命的ですから。若いころは膝を曲げて演じていた。着物の柄が大きいのも背が低く見えるようにという工夫です。そもそも歌舞伎の家の子でもありません。ただ、そういうコンプレックスやいじめを本人は全く気にしていない。
なのに私のマイナスカードに対しては「自分があなただったら苦しくて多分続けられなかった」って。元々の才能の格が違いますから。玉三郎は大天才で、こっちは歯を食いしばって頑張ってきた努力家。だから同じように扱われてもね、正直迷惑です(笑)。
歌舞伎の家の子だったらもっと楽だったかもしれないけれど、そうだったらここまでの役者になっていたかどうか。いや、やはり突出した才能ですよ。恵まれている、恵まれていない、という以前に、ほっておけない力が彼にはあるんです。別格なんですよ。
「人間」と「魔」の境界線に立つ
──改めて玉三郎さんの凄みとは?
例えば『娘道成寺』。あれは清姫という妖怪(蛇)の化身の話ですが、玉三郎が演じると、鐘を見る瞬間の目が本当に「蛇」になるんです。その瞬間ゾクゾクっとする。あの人が動く、あの人が念をこめて「人間」と「魔」の境界線に立った瞬間、劇場の空気が変わる。寒気がしますよ。
歌舞伎は違う役者が同じ演目をやるじゃないですか。でも「型」だけじゃない、というのが彼をみているとよくわかります。役に対する理解や極め方は、それぞれの役者でやはり違う。玉三郎は常人が辿り着けるレベルじゃないですね。
彼は光の感覚もすごい。舞台上に立っているのに、舞台の後ろにまでどのように光が当たっているか、270度ぐらい見えているようなんです。「ここにはこの色が足りない」といった指示を出すんですが、実際にその通りにすると劇的に良くなる。また彼は「光の大事なところは、どこかで断ち切って闇を作ることだ」と言ってます。


















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