「歩道橋から飛び降りて、顔がぐちゃぐちゃになっても愛してくれた」 《25歳差、唯一愛した人》との別れが、"楽しかった"と言えるワケ

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1人になった卯月さんの部屋には、ボビーさんの遺影と遺骨が置かれている。遺影は、メジャーリーグの優勝決定シリーズ第4戦で、大谷翔平が3本目のホームランを放った瞬間の、ボビーさんのうれしそうな笑顔だ。

実は、大谷がホームランを打つ予感がしており、卯月さんは狙って撮影したのだそう。「うまく撮れたので、遺影はこれにしよう、ってお父さんと決めてあったんです」と卯月さんは笑顔で話す。

ボビーさん
遺影にもなった、大谷翔平選手のホームランを見つめるボビーさんの写真(写真:卯月妙子さん提供)

肉体はなくなっても、ずっとここにいる

ボビーさんが使用していた介護器具は、業者が回収していったが、車椅子だけは残してほしいと卯月さんが懇願すると、特別に許可が下りて買い取ることができた。思わず涙がこぼれたという。

卯月妙子さん
いつもボビーさんが座っていた車椅子。そこにあるだけでボビーさんの存在を感じる(写真:卯月妙子さん提供)

卯月さんは毎朝、車椅子に座り、ボビーさんの遺影に「おはよう」とあいさつし、タバコを供える。夜は「お父さん、寝るべ」と、遺影を枕元に置いて眠る。

「遺影のお父さんは、笑ったり悲しんだり、いろいろな表情に見えるんです。しょっちゅうなでたり、キスをしたりしていますね。肉体がなくなってしまった寂しさはすさまじいですが、車椅子も残してもらえて、ずっとここにお父さんがいるんだ、と思っています」

卯月さんはこれからも、ボビーさんとの思い出が詰まった今の部屋に住み続けるという。来年夏頃には、生前のボビーさんの希望で、海上での散骨が予定されている。

死はいつか必ずやって来る。自分自身の死も、愛する人の死も。私たちは、そのことをときに忘れ、ときに思い出す。四六時中、死に向き合うことなどできない。

だからこそ、思い出したそのときは、「どう生きたいか?」「誰と生きたいか?」「どんな最期を迎えたいか?」など、真剣に考えてみるのもいいかもしれない。終わってしまう命もあるが、続いていく命もあるのだから。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京生まれ。大学中退後、広告代理店勤務を経てフリーのジャーナリストに。

社会問題や人物ルポ、歌舞伎町や夜の街を題材に執筆。陽が当たりづらい世界・偏見を持たれやすい世界で生きる人々や、そこで生じている問題に着目した記事を書くことを使命としている

著書に『炎上系ユーチューバー 過激動画が生み出すカネと信者』など。新宿ゴールデン街「プチ文壇バー月に吠える」、四谷荒木町「ブックバーひらづみ」の店主でもある。

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