「歩道橋から飛び降りて、顔がぐちゃぐちゃになっても愛してくれた」 《25歳差、唯一愛した人》との別れが、"楽しかった"と言えるワケ

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宮澤賢治の詩「雨ニモマケズ」では、心身ともに強く、謙虚で、いつも笑顔でつつましく暮らし、困っている人がいれば飛んでいく人物が描かれ、「そういうものにわたしはなりたい」と結ばれているが、まさにボビーさんである。

腕っぷしも強く、度胸もある。絡んできたヤクザと路上で取っ組み合いをしたことも。酒豪でもあり、毎日のように日本酒を1本空けるほどで、卯月さんをハラハラさせた出来事もあったという。

「お父さんが酔っぱらって電車に乗り、眠ったまま終点まで行ってしまったんです。心配で電話すると、駅前の不良たちに『ガキども、うるせえんだよ! おじさんここで寝るぞ』って怒鳴るのが聞こえて。オヤジ狩りに遭うのでは……とひたすら無事を祈りましたね。結局、翌朝5時に電話が来て、『よく寝たー』って。そんなのがしょっちゅうでした」

こんなこともあった。ボビーさんが、卯月さんのことを快く思わない上司から、料亭に呼び出された。「卯月さんと別れたほうがいい」と説得してきたのだ。

ボビーさんは激怒し、「会社を取るか、女を取るか? 女を取るに決まってるだろう!」とテーブルを蹴り倒し、その場で辞表を書いた。卯月さんが改めて惚れ直したのは言うまでもない。

卯月妙子さん
ボビーさんはよき理解者でもあった(写真:卯月妙子さん提供)

歩道橋から飛び降り、生死をさまよう

そんな2人に大きな事件があったのは08年。統合失調症の陽性症状(プラス症状)の影響で、卯月さんが歩道橋から飛び降りたのだ。

すぐさま病院に搬送されたが、顔面を数十カ所も複雑骨折し、何倍にも腫れあがって血を噴き出し続けていた。意識はなく、輸血で命をつないでいる状態だった。病院に駆け付けたボビーさんは、当時をこう振り返っている。

「頭が真っ白ですよね。『会わせてくれ』と医者に言っても、集中治療室に入っているからできない、と。外からのぞいたら、まん丸い顔をしているのが見えて、声が出なかった。とにかく命だけは助かってくれ、と神に祈りました。私は無宗教ですが、それほどなす術がなかったということですね」

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