理想の姿を手に入れた33歳彼女が困惑した理由 小説『コンプルックス』試し読み(3)

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女性の後ろ姿
完璧な美貌を手に入れた彼女の困惑とは――(写真:buritora/PIXTA)
ナルシスの鏡。それは容姿に絶望した人が覗くと、誰もが振りむく姿になれる不思議な鏡。その姿はあくまでも仮想現実。66日を過ぎてもなお、仮想現実から戻らなければ、元の世界におけるその人物の存在は消える──。
ルッキズムをテーマとして自身の容姿に絶望した女性たちを描いた小説『コンプルックス』を東洋経済オンライン限定で試し読み。婚活歴3年を経て3年間交際した婚約者に振られた33歳ネイリストが鏡の中の世界へ――。全3回の最終回をお届けします。
第1回:自分の容姿に絶望した33歳彼女が覗く不思議な鏡(7月20日配信)
第2回:誰もが振り向く姿になった33歳彼女が得た優越感(7月21日配信)

1人の女性客と実質一騎打ち状態

この日のchill chillミチルの店内は、

カップルが2組(バルコニー席)、

男性2人組が1組(店内)、

男性1人が5席(店内)、

そして女性1人で来ている客が祐子の他にもう1人いた。

この戦況は祐子が新しい顔面の破壊力を試すのにはピッタリの状況であった。バルコニー席に男と来ている2人の女性は先ずは戦線離脱している。ということはもう1人の女性客と祐子の実質一騎打ち状態なのである。

祐子は、そのライバルの容姿をなるべく気づかれないように、頭の先から足の先までチェックし戦略分析をした。

身長は157センチぐらい。体重は見た目ではわからないが恐らく40キロ半ばから後半のスレンダー体型。胸はそんなには大きくないように見えるがこれも服の上から測れない要素の1つである。

わかることはこの日、「胸」を武器にしたファッションはしていないということ。ただスカートのスリットの深さ具合から「chill chillミチル」の暗黙の出会いのシステムを熟知している女であり、ナンパ待ちでシーシャを吸う女であることが伝わってくる。

そして肝心の顔面偏差値は、日本人男性の多くが好む色白でアッサリ顔の童顔美人。目も鼻もほっぺも輪郭も全てがパーフェクトに丸みを帯びている。

もちろん丸顔は丸顔でも小さい丸顔。一言で言うなら、甘い和菓子だ。そんな雰囲気を漂わせる女性は中々手強い相手だと祐子は感じた。きっと過去の祐子であれば勝負にもならず不戦敗。ところが今は違う。

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