しかしこの後、祐子は木村貴文のお誘いをキッパリと断ったのである。なぜなら、祐子は、「男の誘いを余裕しゃくしゃくで断る」という体験もしてみたかったからだ。
今の祐子にはそれをする余裕があった。
「ミチルさん、ゴメン。正直私もめっちゃタイプなんだけど今日はあんまり時間がないのよ。だからまた今度ここで偶然出会ったらその時は必ずご一緒しましょう。そう伝えて貰えないかな?」
優越感たっぷりに祐子は、そうミチルに伝えるのだった。
「今日もお会計はイイわよ」
「あなた、本当に可愛いだけじゃなくて駆け引きが上手よね。普通の女なら絶対に飛びつくわよ。正直滅多に来ないVIP客だからゆうこりんには協力して欲しかったけども無理は言えないからね」
そう言うとミチルは腰をフリフリ奇妙な歩き方をしながら、色気たっぷりな成功者の男の席に行き、祐子の言葉を伝えた。
その伝言を受け取った木村貴文はニヤリと祐子の方を見て会釈をした。そんな会釈に対して、祐子もまた、少しだけ口角を上げ、会釈をするのだった。
内心、祐子の胸はやはり、小躍りをしていた。いや、小躍りどころの騒ぎではなく、フラメンコを踊りながら、同時に社交ダンスを踊るような、そんな気分だった。
この店でやりたかったことはやり尽くせたこと。そして、木村貴文への伝言が嘘にならないようにすること。そんな2つの目的を果たした祐子は席を立ち、レジへと向かった。
ところが、ここでもまた、自分が美女になったことを自覚させられる出来事が起こるのだった。
「今日もお会計はイイわよ。木村さんが出してくれるって。本当、ゆうこりんは自分の財布でここのお代払ったことないんじゃないの!? でも助かるわ。ゆうこりん目当てで通って下さってるお客さんも少なくないからね。またいつでも来て。あっ嘘。なるべく早くまた来てね」
この対応に祐子の足は思わずステップを踏んだ。
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