祐子は店内の男性達の視線を確認するように見渡すと、1人で来ている5人の男性中4人が自分の方をチラチラと見ていることに気づいた。
残りの1人はどちらの女性にも目をくれずスマートフォンと睨めっこしながら難しい顔をしている。恐らく本当にただ仕事をしに来たのであろう。
となると……、
この日の評価者にあたる4人中4人が祐子を見ていたことになるわけだ。この大圧勝に祐子は心の中で歓喜した。
“YES!! EASY FIGHT!!”
格闘家が自身のコーナーで勝利の雄叫びを上げるように祐子の気持ちは昂っていた。
4人の中の1人の男性が早い者勝ちであるこの状況に気づいたのか手を上げてミチルを呼び出した。その男性はツーブロックのオールバックに清潔感のあるヒゲを蓄え、黒い肌がその濃い顔とマッチしているお色気むんむんのイケメンだった。
バルクアップされたカラダがハイブランドのスウェットからでもわかる逞しさを兼ね備えていた。
「こっちの世界ではこれが私の日常なのか」
「ミチルさん、あそこにいるお人形さんみたいな彼女? 隣どうかな? 悪いけどちょっと聞いてきてよ」
そんな注意して聞き耳を立てずともハッキリと聞こえていたその声に祐子の興奮はさらに高まった。笑顔を浮かべながら目でサインを送るミチルが祐子の方へと近づいていく。
「ゆうこりん、いつもゴメンね。たまには1人でゆっくりさせてあげたいんだけど今日も相席のご指名だよん。どうする!? もちろん断っても良いけど、あの人、木村貴文さんって言ってジムの経営で成功されてるし、それだけじゃなくてパーソナルトレーナーとしても超有名人。
動画SNSのi Tubeとか見たことない!? 多分100万人ぐらい登録者がいたはずよ。あっ、でも、もちろん嫌味のないスカッとした性格だし個人的にはオススメよ」
祐子の胸はますます小躍りをした。
“選べない側”から、“選ぶ側”になっているこの状況に。
「こっちの世界ではこれが私の日常なのか」
思わず、そんな言葉が口からこぼれた。
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