理想の姿を手に入れた33歳彼女が困惑した理由 小説『コンプルックス』試し読み(3)

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美人は美人であるだけで周りがお金を払おうとしてくる。もちろん男はそうやって払うことによって見返りを交渉する権利を買っているわけだが。

そこで多くの美人は出してくれるお金の量に対して見返りが少ない気前の良い男を探している。この求められるリスクと貰えるリターンの駆け引きを楽しめるのは美人ならではのことなのだと祐子は思った。

祐子は木村貴文に軽く会釈をし、店を出た。

美人になったら体験してみたいことリストの1つ目がアッサリと叶ったことに感動を覚えつつ自宅までの帰路につくのだった。

もちろんその帰り道、周りの男性からの熱い視線を浴びながら。そして、自分自身が生まれ変わったような感覚を覚えながら。

祐子が鏡の世界にパラレルトリップしてきて一夜が明けた。完璧な美貌を手に入れて幸せいっぱいの気持ちで眠れるはずだった。しかし、一睡もできなかった。

同僚からのメッセージ

美人になって初日の夜を迎えた祐子は一晩中“あること”を考えさせられるハメになったからだ。

鏡の向こうの世界ではネイリストの仕事を1週間前に退職した祐子。どうやらこちら側の世界でも似て非なる理由でちょうど1週間前にネイリストの仕事を退職していたことを祐子は知ったのである。

年収500万円の婚約者の友哉と婚約が破談になって、職場に行きづらい状況になって辞めたのが鏡の向こうの世界。

それがこちらの世界では、年商5億円の会社経営者の婚約者の章浩と婚約が破談になって、職場に行きづらい状況になって辞めたことになっている。

そのことを祐子が知ったのは昨日の夜の美羽からのメッセージがきっかけであった。

石井美羽33歳。

そう、祐子のネイルサロンでの同僚。かれこれ5年以上の付き合いである。

《ゆうこりん大丈夫? しばらく連絡するの控えてたけどやっぱり心配だから連絡しました。ちゃんとご飯食べてる!? 章浩さん酷いよね。あんなに3年間ずっとゆうこりんにゾッコンな態度をとっておいて……

“君と結婚しても上手くやっていく自信がない”って言ったんだって!?

章浩さんの友達の大樹君に聞いちゃったよ。ほら、あの時章浩さんを合コンに連れてきてくれた不動産の売買してる長身のイケメンね。

あり得ないよね。そりゃ年商5億の会社経営してたら、結局、女をとっかえひっかえで相手を決めきれないのか知らないけど、手の平返しも良いところよね。

ていうかゆうこりん水臭いよぉー。そんな時こそ頼って欲しかったのに。

とにかくオーナーも退職届は預かっておくカタチにしとくって言ってるから気持ちが落ち着いたら戻っておいでね。

また元気になったらご飯行こうね。》

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