住民の安全を後回しにした福島第一原発「警戒区域」解除の無責任
松倉さんの自宅は、政府による航空機モニタリングで放射線の年間積算線量が比較的低かったことを理由に、「避難指示解除準備区域」(年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された区域)に区分された。だが、現実は大きく異なっていた。
市の職員が計測したところ、庭先で12マイクロシーベルト/時(年換算100ミリシーベルト超)に達する「ホットスポット」(高汚染地点)が見つかった(自宅周辺の平均放射線量は2・5~3マイクロシーベルト/時)。
年100ミリシーベルトといえば、そこに居続けた場合、発がんなど人体への影響が顕在化しかねない放射線量だ。しかし、区域の設定が実態を反映していないうえ、除染のスケジュールも決まっていない。その一方で避難指示解除準備区域では、一時的な立ち入りに際しての放射性物質のスクリーニングや防護措置は必要とされていない。子どもや妊婦の立ち入りについても何の規制もない。
「住民の安全・安心の確保が最優先」(政府の原子力災害対策本部)という建前とはあまりにも懸け離れた現実が広がっている。
政府が警戒区域の解除に踏み切ったのは、原発事故収束への道筋の「ステップ2」に当たる原子炉の「冷温停止状態」が達成されたとの判断に基づく。それを踏まえて警戒区域の一部は放射線量のレベルに応じて「避難指示解除準備区域」および「居住制限区域」(年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがある地域、農作業など生産活動は禁止)、「帰還困難区域」(年間積算線量50ミリシーベルト超)の三つのエリアに新たに区分された。このうち、避難指示解除準備区域や居住制限区域については、住民の一時帰宅が自由になった。